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ヒョンデ『アイオニック5』の従来価値観を超えたデザイン、その8つの見所とは

  • 《写真撮影 千葉匠》
  • 《写真撮影 千葉匠》
  • 《photo by Hyundai Europe》
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  • 《photo by Hyundai》
  • 《写真撮影 廣井誠》
  • 《写真撮影 千葉匠》
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アジアのブランドとして、初めて「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたヒョンデの『IONIQ5(アイオニック5)』。実は筆者も最終選考で、10点の『クラウン』に次ぐ6点をアイオニック5に投じた。意欲的なデザインに魅せられたことが、その大きな理由だ。

そこで今回はアイオニック5のデザインの見所を8つに整理してお届けする。まだ路上で見かけることは少ないクルマだが、もし遭遇したら、これを参考にデザインを味わっていただきたい。

◆見所1:SUVではない
メルセデスベンツが2018年に初の量産BEVとなる『EQC』を発表したとき、デザイン責任者がこう語っていた。「床下にバッテリーを搭載してフロアが高くなるBEVはSUVに向いている。加えてCセグメントのSUVはいま最もホットなセグメントだ。そこでCセグメントのSUVからBEVを始めようと考えた」

日産『アリア』やトヨタ『bZ4X』もCセグメントのSUVだ。アイオニック5はと言うと、全長はアリアとbZ4Xの中間に位置し、全高はそれらより少しだけ低い1645mm。SUVであっても不思議のないサイズだが、そうはデザインされていないのがアイオニック5の面白いところである。

ボディ裾周りのガーニッシュやホイールアーチモールは、言わばSUVデザインのお約束。そこをブラックアウトしてボディ色で見える部分の視覚的な重心を上げ、SUVらしいリフトアップ感を演出するためである。しかしアイオニック5のそれは明るいシルバー色だ。

ヒョンデによれば、アイオニック5のエクステリアは1976年の初代『ポニー』をモチーフにデザインしたという。フォード車のラインセンス生産で自動車事業に参入したヒョンデにとって、初代ポニーは自主開発車第一弾という記念碑的な存在。EV新時代に向けた戦略車第一弾のアイオニック5が、それを振り返ったのは当然のことだったのだろう。

初代ポニーは当時で言えば『カローラ』/『サニー』級ハッチバックだった。アイオニック5の強く傾斜した太いCピラーは、そこから引用した特徴。これがフォルム全体に前進する勢いをもたらしているのだが、ハッチバックが原点だから、そもそもSUVにする発想などなかったわけだ。ヒョンデによれば、サイドシルのガーニッシュは床下に十分な容量のバッテリーがあることを示唆するもの。だからあえてシルバーで目立たせた。

バッテリーのためにフロアが高くなれば、ベルトラインも上がる。しかしアリアやbZ4Xと比べて、アイオニック5はベルトラインが低めだ。SUVであれば、高いベルトラインでボディが分厚く見えるのはむしろ歓迎だが、アイオニック5はシルバー・ガーニッシュを含めて見ても、ボディが分厚くなりすぎないところにベルトラインを引いている。

SUV並みの全高のなかで、5ドア・ハッチバックの美学を貫いたアイオニック5。これは前例のないチャレンジであり、魅力のポイントだと思う。

◆見所2:短いオーバーハングによるスタンスの良さ
アイオニック5を見て「これぞEVならでは」と感心するのが、長いホイールベースと短いオーバーハングだ。ホイールベースはクラストップの3000mm。それを活かして、72.6kWhのバッテリーを床下に敷き詰めている(ベースグレードは58.0kWh)。

一方で、フロントにエンジンという大きく重い剛体を持たないEVは、衝突安全性を確保しながらICE車よりフロントオーバーハングを切り詰められる。そこがアイオニック5は非常に短い。リヤオーバーハングは後突要件だけでなく荷室の考え方にも左右されるが、アイオニック5はゴルフバッグ3個を収容できる荷室を持ちながら、これも非常に短い。

全長からホイールベースを引いた前後オーバーハングの合計寸法を比べると、アリアが1820mm、bZ4Xが1840mmなのに対して、アイオニック5は1635mm。およそ200mmも短いのだ。そのぶんタイヤがボディの四隅に追いやられ、地面に踏ん張るスタンスが醸し出される。EVの利点を最大限に活かしたプロポーションなのだ。

◆見所3:幾何学的だが味わい深いフォルム
アイオニック5のエクステリアには直線的なラインが多用されている。直線や円弧で囲まれた面を組み合わせて立体にした、幾何学的な多面体フォルムと見ることができるだろう。フロントグリルの下、リヤコンビランプの下に、それぞれ垂直に黒いモールを入れて「車体中心線」を示したことも、幾何学的なイメージを強めている。

例えば動態美をチーターの走る姿に求めるマツダの魂動デザインとは、まったく対照的だ。むしろ家電や情報機器などのプロダクトデザインを想起させるような造形テイストを、クルマらしくスタンスの良い5ドア・プロポーションに組み合わせている。しかしそれだけではない。

直線的なラインのなかでも、フロントドアからリヤドアへ斜めに駆け下るラインはアイオニック5を特徴づける大きな要素だ。この谷折りのラインはボディサイドの立体構成の境界線。ラインから上の立体は後輪へと向かい、ラインから下の立体は前輪へと向かう。こうしてボディの視覚的な重さを前後輪に導きながら、上下の立体が入れ違うラインをズバッと斜めに通した。プロダクトデザイン的に見えながら、実は踏ん張り感という動態美もしっかり表現するフォルムなのだ。

上下の立体は凸断面。この豊かな凸断面とシャープな斜めラインの強烈なコントラストも味わいどころだ。ドアの端末には鉄板を折り返すヘミング処理が欠かせず、鉄板が二枚重ねになるので折れ線のシャープさが甘くなりがちだが、アイオニック5にはそれを克服。「よくぞここまで」というシャープさが、凸断面とのコントラストを際立たせている。

◆見所4:パラメトリックピクセルのEV表現
前後のランプには「パラメトリックピクセル」と呼ぶデザインテーマが採用されている。デジタルデザインの最小単位であるピクセルをモチーフとし、小さなエレメントを規則的に(ある種のパラメーター=媒介変数に則って)いくつも並べることでアナログ的な相乗効果を生み出し、印象を強めようというのがパラメトリックピクセルの狙いだ。

ヘッドランプは2つの直方体を、前後差を付けて組み合わせたデザイン。それぞれの直方体の前面にはめ込まれたポジションランプ兼ターンランプのレンズは、よく見ると、小さな正方形を積み重ねた形状だ。直方体の側面にも小さな正方形が刻まれている。

グリルの下の横長い三角形の斜面には、無数のライン発光が隠されており、ポジションランプと共に点灯する。ヒョンデはこれをパラメトリックピクセルの表現事例に含めていないが、光るラインがずらりと並ぶその様子は、ポジションランプの正方形よりむしろ印象的だ。

よりわかりやすいのがリヤコンビランプだろう。小さな正方形を、まさにピクセルのように並べながらテールランプ、ストップランプ、バックアップランプをレイアウトしている。

ヒョンデではこのパラメトリックピクセルを、EV車種に共通の特徴にする方針。日本導入が期待されるセダン型の『IONIQ6(アイオニック6)』でも、フロントのポジションランプ兼ターンランプ、リヤコンビランプやハイマウントストップランプなどを、小さな正方形を並べたデザインにしている。2021年に発表したSUVの『セブン・コンセプト』(いずれ登場するIONIQ7の予告編)も同様だ。

◆見所5:開閉式エアインテークのEVらしさ
ディテールでもうひとつ「EVらしさ」を表現するのが、フロントバンパーの開閉式エアインテークである。EVもバッテリーやインバーターを冷やす風が必要だが、エンジンがないからグリルや冷却開口は不要と思い込んでいる人が少なくない。となると、従来のようにメッキで飾り立てたようなグリルはナンセンス。グリルレスにするか、開口のないグロスブラックのグリルにしながら、バンパーにエアインテークを置くというのがEVの顔作りのトレンドだ。

アイオニック5も例外ではないが、そのインテークをバッテリーの温度に応じて開閉するようにした。多くの場合は閉じているので、事実上は開口がないのと同じ。人々のEVへの思い込みに、しっかり応えるデザインなのである。

◆見所6:リビングスペースの居心地
3000mmという長いホイールベースはもちろん、豊かな居住性にも貢献する。しかも床下バッテリーだからフロアはフラット。それらを活かして、アイオニック5のインテリアは「リビングスペース」をテーマにデザインされた。エクステリアがプロダクトデザイン感覚なら、インテリアは住空間のテイストだ。内外装から「クルマ臭さ」を薄めたのは、EVならでは方向性と言えるだろう。

インパネは水平基調で、その両端は「ここで終わり」とばかりにクッキリと区切られている。インパネからドアへラウンドさせたら、どうしてもクルマ臭くなる。インパネをリビングスペースの家具と見立てれば、それはラウンド形状ではなく、ひとつの独立したカタチに見せなくてはいけないわけだ。

そんなインパネの「家具感」を高めるのが、助手席側の引き出し式グローブボックスである。一般的なスイング式より、引き出し式のほうが家具っぽいのは言うまでもない。

エクステリアとは逆にシャープエッジのない、優しいイメージの造形も「リビングスペース」としての居心地のよさを醸し出す。とくに注目したいのが、インパネ・アッパーパッドの視覚的な柔らかさだ。

素材や製法について確たる情報はないが、ヘッドアップディスプレイ搭載部を除くアッパーパッドは、TPU(サーモプラスチックウレタン)というソフト素材を表皮にしたスラッシュ成形だろう。発泡ウレタンを挟んで合皮を巻くほうがもっとソフトな触感になるが、断面の取り方でソフトに見せたのが巧い。

アッパーパッドの助手席側に施されたステッチは、表皮と同時成形したもの。いわゆる疑似ステッチだ。そこを合皮巻きにしてリアルステッチを入れる手法も、ヒョンデのデザイナーはもちろん考えたはず。しかしステッチの向こう側にはエアバッグがある。

合皮を突き破ってエアバッグを展開させるのは難しいので、合皮巻きを使う場合、手前だけ合皮巻きにして、奥は樹脂成形と分割することになる。しかしそれではソフトな断面を表現できない。断面形状が醸し出す「居心地」を優先し、あえて疑似ステッチに割り切っているのだ。

◆見所7:揺りかごのようなシート
フラットフロアを活かして、コンソールは前後に140mmスライド可能。ドラポジが決まってしまえばスライドさせる必要はないかもしれないが、それが役立つのは休憩/充電中だろう。

EVユーザーにとって、出先で急速充電する時間の過ごし方は悩ましいもの。そんなときに役立つのが、アイオニック5の「リラクゼーションコンフォートシート」である。運転席と助手席がスイッチひとつでリクライニングし、座面の傾斜が起き上がり、オットマンも出てきて、揺りかご状態の楽ちん姿勢にしてくれる。そのときコンソールをスライドさせたくなるのだ。

まるで自分の体重を感じないような、いわゆる「ゼログラビティ」の座り心地。そしてそれがアイオニック5の「リビングスペース」というデザインテーマを決定的に印象づける。おそらく自宅のソファより快適なのだからね。

◆見所8:白いベゼルと白い画面のチャレンジ
12.3インチのTFT液晶をふたつ並べたディスプレイは、白いベゼル(額縁部分)がひとつの特徴。iPhoneを連想するのは、筆者だけではないだろう。初期のスマホはブラックフェイスが当たり前だったが、アップルは2011年、iPhone4にホワイトモデルを設定。それからまもなく登場したiPhone4Sでホワイトが人気を博し、2017年にベゼルのないiPhoneXが出るまでその人気が続いたように記憶している。

そんなiPhoneの歩みを想起させるアイオニック5の白いベゼルも、従来のクルマ価値観とは一線を画すEVらしいデザイン。ディスプレイ画面の色はホワイト基調とブラック基調を選ぶことができるが、ブラック基調の画面にすると白いベゼルが必要以上に目立ってしまう。

ベゼルはユーザーのためではなく、構造上の理由で存在するにすぎない。だからヒョンデのデザイナーは、白いベゼルを特徴にしつつも、それが目立ちすぎないホワイト基調の画面を用意したのだろう。クルマのディスプレイではおそらく前例のないチャレンジとして、これも見所だ。