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クロストレック 新型に広角単眼カメラを搭載、死亡交通事故ゼロへスバルの本気

  • 《写真提供 SUBARU》
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SUBARU(スバル)は11月30日、事故低減に向けた取り組み(衝突安全編)と題したオンラインイベントを開催した。

始めに、技術本部執行役員技術本部副本部長兼CTO室長 植島和樹氏が登壇し、SUBARUがキャッチコピーとして掲げている『2030年に死亡交通事故ゼロを目指す』を実現させるための取り組みが説明された。

◆SUBARU車における米国・日本の死亡事故は、業界平均を大きく下回っている
SUBARUは0次安全、走行安全、予防安全、衝突安全という独自の総合安全思想を掲げ、安全対策を進めてきた。

0次安全については視界のよさ、疲れにくいシートの採用といったクルマ自体の安全性の追求。走行安全については、動的性能・危険回避性能といったクルマが動き始めてからの安全性の確保。予防安全についてはプリクラッシュブレーキ機能の向上や、車線維持機能など、リアルワールドをクルマに認識させる安全対策。衝突安全については高度なシートベルトリマインダや歩行者保護エアバッグの装備など、乗員および歩行者などの保護を考えた安全対策となっている。

これらの取り組みを続けていることで、実際に米国の死亡事故、日本の死亡重傷事故の100万台あたりの件数は、業界平均を大きく下回っている。

◆安全評価の高さは米国でも日本でも評価団体からのお墨付き
各国の安全性能評価でも、米国IIHSでは2022年11月3車種がトップ・セイフティ・ピック・プラスを獲得。SUBARUが獲得したトップ・セイフティ・ピック・プラスの累計数がブランド最多の66になったとのこと。そして2022年3月に新しく始まったシートベルトリマインダの最初の評価では、トヨタ、日産自動車、ホンダ、マツダ、アウディ、フォード、ボルボ、フォルクスワーゲンなど多くのモデルがテストされた中で、SUBARU車のみがGood評価を受けた。2022年8月には新しく始まった非常にシビアな側突2.0において、Midsizeカテゴリーで『アウトバック』のみがGoodとなった。日本国内でもJNCAPにおける年度最高点の車両に与えられるファイブスター大賞をアウトバックが獲得したと報告された。

次に車両安全開発部の古川寿也氏が登壇。死亡交通事故ゼロへの取り組み方法について語った。死亡交通事故ゼロを実現するため、米国で発生したSUBARU車における死亡事故を全件調査。その原因と状況から、事故や死亡を防ぐために必要な対応機能と対応手段を決定し、開発と織り込みを順次進捗している。もちろん国内の事故についても調査し追加の対応も検討している。

調査方法については、ミシガン大学の協力を得て実際に発生した事故の傷害医療データや事故自動緊急通報の車両計測データを使い、衝撃と傷害の関係を調査。国内では群馬大学医学部(救急医学)の協力を得て、実症例を基にデジタル人体モデルTHUMSを用いたシミュレーションを実施し比較することで、傷害と死亡との関係指標を作成している。

発売が待たれる新型『クロストレック』は、今までに集められたデータをもとに、より安全性の高いボディ設計となっている。たとえば効率的に衝突エネルギーを吸収するSGP(スバルグローバルプラットフォーム)に、高強度材を活用しシビアな衝突に耐えるキャビンを組み合わせ、全方位の衝突に対応している。また車高が高いためサブフレームによる補強も行われている。

ボディについてはフレームだけでなく、衝突安全の視点でも研究開発が進められている。日本ではとくに歩行者や自転車に乗った人との事故も多いため、歩行者保護エアバッグの重要度は高く、最近の研究ではサイクリストの場合、現在の歩行者保護エアバッグでもカバーしきれない、より後方への衝突が発生する可能性があることが判明。この対策も検討しているという。

◆評価の高いクルマが増えれば増えるほど市場安全に繋がる
次に、自動車の衝突安全について最先端の研究が行われている名古屋大学への取材映像も公開された。取材では工学研究科自動車安全工学研究グループの陣頭指揮を執る、水野幸治教授へのインタビューが行われた。

衝突時の安全を確保するために大切なこととして、クルマに関しては、客室の部分を変形させないということがもっとも大事だという。これは客室が潰れてしまうと、生存空間がなくなってしまい、負傷者を助けられないという事態になってしまうため。そのあと、中の乗員を守る手段としてシートベルトないしはエアバッグといった、拘束装置による乗員の保護と、緩衝装置による乗員を衝撃から保護するということが重要になると語った。

また世界各国の安全評価基準については、評価が高いクルマほど重傷死亡率が低いという結果が出されているので、評価の高いクルマが増えれば増えるほど、市場安全に繋がっていくということが言えるとの説明があった。

一方で、交通事故は社会現象のひとつであるため、人口動態や社会とともに変わっていく。そのため変化に合わせて評価も変えていく必要があるとの意見を述べた。たとえば日本の場合、高齢化が進んでいるため高齢者に対しての安全をより考えていく必要がある。高齢者の場合、胸部などは骨折しやすく弱い力でも骨折してしまうので、そういった対応への評価をいかに組み込んでいくかなども考慮していく必要があるとのこと。

また基本的なこととして、シートベルトの位置についても正しい知識を共有することが大事だと述べていた。たとえば、ラップベルトは自分のズボンのベルトよりも下に位置していることを確認することが大事で、骨盤よりも下に通さないと、衝突の際にベルトが腹部に食い込んでしまうことになり、シートベルトの性能を100パーセント発揮することができない。評価基準が高いクルマであっても使用方法が正しくなければ意味が無いということも認識しておく必要がある。

◆安全性向上のためにはコスト増加もいとわないSUBARUの本気度
技術本部 ADAS開発部主査5の安藤祐介氏が登壇し、新型クロストレックの予防安全の進化点について説明した。新型クロストレックには、アイサイト史上最高の安全性能を実現するべく、広角単眼カメラを国内初搭載している。

この広角単眼カメラは、ステレオカメラの約2倍の範囲を認識でき、交差点で右左折時に自車の内側から歩行者が飛び出した際や、交差点通過時に自車より速いスピードで左右から飛び出してくる自転車などを瞬時に認識する。広角単眼カメラについては、今年4月に完成したSUBARU群馬製作所ADAS新テストコースで、実際に実験している映像も交えて紹介された。

SUBARUの発表によると、人間の視野は約200度とかなり広い範囲を認識できるが、中心視は約1~2度、有効視野は約4~20度と、かなり狭い視野で運転しているとのこと。つまり死角に対するカバーをクルマが見守ることで衝突被害の軽減に役立たせるという理論だ。従来のステレオカメラだけではカバーしきれない部分については、さらなるハードウェアを追加し、コストがかかっても安全性能にこだわる。SUBARUの掲げた2030年死亡交通事故ゼロに向けた取り組みの、本気度を垣間見られる対応だ。