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【トヨタ プリウス 新型】豊田社長に抗ってでも実現した斬新デザイン、その原点とは

  • 《写真提供 トヨタ自動車》
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  • 《写真撮影 宮崎壮人》
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11月16日に開催された新型『プリウス』のワールドプレミア。トヨタを代表してプレゼンテーションしたのは、クルマ開発センター・デザイン領域統括部長のサイモン・ハンフリーズ氏だった。トヨタデザインのトップである。

しかし彼が語った内容は、デザインよりむしろ企画の背景や経緯に重点が置かれていた。なぜならそこにこそ、この斬新なデザインの原点があったからだ。

◆いつまでハイブリッドを作り続けるのか?
「ご存知のようにBEVがフォーカスされる昨今、『いつまでハイブリッドを作り続けるのか?』という言葉を聞かない日はありません」

プレゼンテーションの冒頭、サイモンはこう語った。新型プリウスに対して当然予想される疑問に先手を打った格好だ。

「1997年にデビューしたプリウス。その名前はラテン語の「開拓者」に由来しています。初代プリウスの発売以来、トヨタはグローバルで合計2030万台のハイブリッド車を販売し、CO2排出を約1億6200万トン削減しました」

膨大な数字を紹介した上で、「しかしプリウスの最大の功績は、これらの数字よりむしろ、ガソリンとディーゼルに代わる現実的な選択肢に道を開いたことです」とサイモン。

「それ以来、ハイブリッド技術はトヨタだけでなく、自動車産業全体に採用され、発展してきました。プリウスがそれまでとは違う考え方のドアを開けたのです」

とはいえ、やはり今はBEVにフォーカスが当たりがち。サイモンはトヨタがBEVラインナップの拡充を急いでいることを紹介しつつ、章男社長がしばしば語る“全方位戦略”にも触れた。

「章男社長は言います。『BEVは重要な解決策だが、それが誰にとってもいつでもベストな選択肢だとは限らない。多様化した世の中では、選択肢にバラエティが必要だ』と」

「しかしこうした説明とは裏腹に、私たちは『いつまでハイブリッドを作り続けるのか?』という質問に今も直面しています。それでも章男社長は『プリウスは残さなくてはいけない』と決意を固めていました。なぜでしょう?」

◆コモディティか愛車か
初代プリウスは採算度外視の実験的な提案型商品だったが、2代目以降は台数が一気に増え、利益が出るクルマになった。ビジネスにならなければ続かないし、普及しない。トヨタがそこに向けてプリウスを進化させ続けてきたのは、エコカーは広く普及してこそ世の中に貢献できると考えるからだ。

「多くの人々にとって手の届くエコロジカルな解決策が必要です」とサイモンは続ける。「プリウスはマジョリティのクルマ。それが強みであり、存在理由なのです。だからこそプリウスというブランドを失ってはいけない」

これが冒頭の『いつまでハイブリッドを作り続けるのか?』という質問への解答だ。「開発を始めるとき、このゴールは皆が合意していたのですが、それを達成する手段については熱い議論がありました」

議論の焦点は、コモディティか愛車か…だったという。コモディティとは例えば白物家電のような日用品のこと。愛着の対象ではないわけだが、意外なことに、「次世代プリウスはコモディティの方向に進化すべき」と提案したのは章男社長だったという。サイモンがこう振り返る。

「次のプリウスをタクシーにしたらどうか? (タクシーのような)ヘビーユースでプリウスの台数を増やせば、環境により貢献できるというのが章男社長のアイデアでした」

プリウスは(派生車でミニバンの『プリウスα』を含めて)日本だけでなく、欧米でもタクシーとして多く使われている。そこを重視したプリウスというのは、ありえる方向かもしれないが…。

「章男社長はプリウスをOEM車として、他社を通じて販売することも提案しました。プリウスの環境技術を企業の壁を越えて広めることで、カーボンニュートラルに貢献しようというわけです」

ちなみにトヨタは2019年、ハイブリッド技術を特許料無償で競合他社に提供すると発表。最近の報道では、それが実を結びつつあるらしい。とはいえプリウスをOEM車にして、他社から顔違いのプリウスが出ることを容認するとは大胆な発想である。

◆社長提案にあらがった開発陣の闘い
「でも私たち開発陣は、違う道があると信じていました」とサイモン。「人々が合理的な利益だけでなくエモーショナルな体験でも選んでくれるクルマを作りたい、と考えたのです」

社長提案に開発陣が抵抗した。これをサイモンは「興味深い闘い」と呼ぶ。クルマ大好きな章男社長がコモディティを提案した真意を想像すれば、開発陣がプリウスを存続させるに値する提案をできなければコモディティにしてしまうぞ、とプレッシャーをかけたのかもしれない。

「合理性、燃費、その他の多くの価値を追求すれば多くの制約があり、デザインが簡単でないことは疑いありません。でも私たちは、お客様への訴求力を高めるために、プリウスの次のステップは“妥協ないクルマ”にすることだと信じていたのです」

コモディティ化を避けたい開発陣の闘いが始まった。

「数字だけではなく、愛されるクルマにしたい。過去に私たちが直面した困難さから、章男社長はこれが実現可能だとは考えていなかったと、正直なところ思います」

「しかし彼は私たちを否定せずに闘うチャンスを与え、コモディティ化ではなく愛車という方向を選んだチームに『面白いね』と告げました。そして最終案のデザインを見て、『カッコいい!』と言ったのです」

現行=4代目プリウスは、デザインの最終案を役員に提案した段階でNGを食らい、急遽、キャビンを除くすべてをデザインし直した。そんなデザイナーにとっては悪夢のような出来事から7年を経て、社長に逆らった提案にもかかわらず新型のデザインが承認されたという事実は興味深い。

◆論理を超えて「愛車」を目指したデザイン
サイモンがいったん降壇し、2台の新型プリウスが壇上に登場。そしてサイモンがプレゼンテーションを再開する。

「このクルマを愛する理由はたくさんあると思いますが、そのトップ5を紹介しましょう。第一に美しさです」。そして微笑みながら「少なくとも私は、そう思いたい!」と付け加えた。

社長が実現不可能だと考えていた“愛車”という方向性が、スポーティでスタイリッシュな姿となって結実した。

「何が変わったのか? 良いデザインはデザイナーだけでは創れない、という相互理解が生まれたことだと思います。エンジニアリングチームは乗員の位置を下げ、ホイールベースを延ばし、タイヤを19インチに大径化することに努力してくれましたが、必ずしもそれは論理的なことではありません」

全高は先代より40mm低い。前面投影面積が減るから空気抵抗では有利だが、着座位置を下げねばならず、そうすると脚を延ばした姿勢になって前後方向に寸法を食う。ホイールベースを50mm延長しながら、カップルディスタンス(前後席のヒップポイント間距離)が8mmしか長くなっていないのはそのためだ。タイヤを大径化すればバネ下が重くなるが、そこはタイヤ幅を狭めることで対処している。

論理的ではないところもありながら、「でも、それによって、プリウスのアイコニックなシルエットを次のレベルに引き上げることができたのです」

アイコニックなシルエットとは、2代目から続く“トライアングルルーフ”だ。たんに滑らかなカーブにするのではなく、あえて頂点を設けて三角形にする。均整が取れていながら動きを感じさせるルーフラインだ。新型は頂点を後ろ寄りにして後席ヘッドルームを確保しつつ、低全高のトライアングルルーフを実現させた。

「(エクステリアは)スリークなだけでなく、力強く、安定している。大胆でシンプルなだけでなく、面の動きも豊か。主張のあるデザインです!」

力強く膨らんだリヤフェンダーは、面の動きを最も見せるポイントだが、サイドシルにも注目したい。サイドシルの下端をフロントドアの中ほどから斜めに跳ね上げつつ、その後方ではサイドシルが内側に大きく湾曲。前輪から後ろに流れる面と、後輪から前に流れる面とが、跳ね上がったラインを境に行き違う。ダイナミズムを醸し出す面構成だ。

◆デザインだけではない新型プリウスの4つの魅力
「エモーションを掻き立てるのは、デザインだけではありません」と、サイモンは残る4つの魅力を語り始めた。ここは箇条書きでまとめさせてもらう。

■エンジン付きEV
エンジンとモーターが相乗効果を発揮する。PHEVは比類ないパフォーマンスを持ち、0-100km/h加速は6秒台。EVモードの航続距離は現行車に比べて50%以上も延びた。

■驚異のドライビング・ダイナミクス
TNGAプラットフォームが成熟され、大径タイヤながら低重心化した。ボディ剛性を高めたことで、直線ではしっかりと安定した応答を、コーナーではドライバーの意図に応じたライントレースを実現する。

■デジタル化とクオリティ
12.3インチのセンタースクリーンを採用しただけでなく、デジタル環境がドライビング体験を高めるようにそれをレイアウト。高い素材品質と革新的なイルミネーションを組み合わせ、インテリアのユーザー体験も心を掴むものにした。

■世界で最も効率の高いハイブリッド車
新型プリウスのエキサイティングなすべての資質は、カーボンニュートラルへの積極的な貢献を犠牲にするものではない。ゼロエミッションへの道のりは確かに険しいが、ゼロの向こう側には、より明るく幸せな未来が待っている。私たちは世界中の多くの人々に、より良いソリューションを提供するために、あらゆる努力を惜しまない。

普通ならチーフエンジニアが説明する内容まで、デザイナーが語った。ワールドプレミアというグローバルイベントだから、英語が母国語のサイモンがプレゼンターを務めた事情もあったのだろう。しかしデザインは企画から生産技術まで幅広い部署と協業する仕事。サイモンのスピーチは、デザイナーが持つ総合性という意味でも印象深いものだった。

【筆者注記】トヨタのホームページにサイモンのプレゼンテーションの日本語訳が掲載されていますが、本稿は英語のスピーチをベースにしているので、ホームページとは文言が異なるところがあります。