注目の自動車ニュース

【シトロエン C5 X】新しいブランドアイコンを考えるために千本ノック

  • 《写真提供 ステランティスジャパン》
  • 《写真提供 ステランティスジャパン》
  • 《写真提供 ステランティスジャパン》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真提供 ステランティスジャパン》
  • 《写真撮影 高木啓》
  • 《写真撮影 高木啓》
  • 《写真撮影 高木啓》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《photo by Citroen》
  • 《photo by Citroen》

ステランティスジャパンはシトロエンのフラッグシップ、『C5 X』を発表。そのカラーマテリアルを担当した日本人デザイナー、柳沢知恵さんが来日しその意図や背景について語ってくれた。

◆人が触れる素材の全てを監修
そもそもカラーマテリアルデザインとはどういうものなのだろう。「自動車のデザインというのはすごく分業されています」と柳沢さん。

「エクステリア、インテリア、カラーマテリアルと大きく3つのカテゴリーがあり、最近だとモニター、画面の中のUX/UIデザインもあります。その中で私はカラーマテリアルといって、人が触れる素材全てを見ています。わかりやすいところだと、ボディカラーをはじめ細かいところの色使い、内装も触れるところ全部ですので、ダッシュボードの素材からシート、天井材、ラゲッジにわたるまでカラーマテリアルデザイナーとして監修しています」と柳沢さんは説明する。

そして、「カラーマテリアルデザイナーが開発に入るタイミングは、メーカーやブランド、車種によっても違いますが、C5 Xではエクステリア、インテリア、カラーマテリアルがほぼ同時に始まりました」という。従って、「形がない状態で色素材の提案をしなければなりません。通常のプロジェクトによっては、ある程度形ができているものに色をつけたりができるのですが、何もないところからの参加だったので、こういう雰囲気のものが作りたい、こういうものを表現したいという、最初のアイディアソースとなるも雑貨やオブジェなどを用いながら、グループの中でコミュニケーションツールとして使っていきました」。

そういったアイディアを創出するにあたっては様々な雑貨などとともに、過去のシトロエンからもインスピレーションを得ているという。「シトロエンにはコンセルヴァトワールという完全予約制の博物館があります。そこにチームで行って、みんなでシトロエンの上質さとはなんだろうという話を繰り返し行いました。そこで出たのはやはりコンフォートで、例えばシートはふかふかだとかう話になったのです。そこで今回のキルティングも柔らかい形に見えるような、キルティングラインを追求しています(シートに柔らかみを感じさせるようなふくらみを持たせている)」。

◆新たな5つの要素
また、「上質なシトロエンというのもテーマで、みなでドローイングをしました。そうしたところ、シェブロンの柄で遊ぶ人が結構いたんですね。シェブロンの柄はやはりシトロエンを象徴するものなので、それをそのまま色・素材に落とし込むとどうなるだろうということで展開したのがC5 Xの5つの要素でした」と話す。

そのほかにも多くのアイディアがあったが、今回採用された5つの要素、ひとつ目はドアを開けて最初に目につくシートに入っているステッチだ。シトロエンのロゴ、ダブルシェブロンが、「連続して一筆書きのようなステッチになって入っています。シトロエンのインテリアデザインはホリゾンタルラインといって、水平基調のデザインをアピールしているのですが、その上に表現することでそれをさらに主張するためのアクセントとなっています」と述べる。

続いてダッシュボードのシボがある。シボとは素材の表面の細かな凸凹のことを指すのだが、柳沢さんいわく、「縁の下の力持ち。プラスチックの表面には必ず何かしらの加工が必要なんです。その理由は耐久性が増したり、傷が目立たなくなったり、質感が向上して見えるという効果があるからです」という。

次に、シートのパーフォレーションと呼ばれる小さな穴がある。「空調シート用のものでそこから空気が出てくる穴があり、通常は一定間隔に並んでいるものが多いのですが、こちらもシェブロン模様を表し、穴の大きさで柄が表現されていて、これが一番こだわったポイントです。空調の性能を保ちつつ引き裂きなどの強度にも耐えられる穴の大きさを追求しました」とコメント。

4つ目はシートのアクセントクロスだ。先ほどの一筆書きのようなシェブロン柄の下にあるもので、印刷なのだがとても厚みを出している。そのこだわりのポイントは、「触ると凸凹の質感を感じることができて、日本の印伝のようなものを想像させます」と柳沢さん。

最後はドアの木目のパネルだ。「木目調の柄の上にさらにシェブロン模様が細かく入っています。2016年に発表された『CXPERIENCE』というコンセプトカーがこのアイディアのもとになっています。CXPERIENCEの木目使いのコンセプトは、木なのにやわらかく見せるというところで、それを量産車でどうやって表現できるかを追求しました」と説明した。

因みにこのシェブロン柄は既に他モデル、例えば『C3エアクロス』や『C4』にも一部採用されているが、フルスペック、つまり柳沢さんのチームとして開発したシェブロン柄の全てが盛り込まれたのはこのC5 Xが初めてである。

◆落ち着いた色はチャレンジ
今回、内外装カラーは比較的落ち着いたカラーが多い傾向にある。その理由を柳沢さんは、「エクステリア、インテリアともに抑え目のカラーをラインナップにすることで、細かい仕立て、シェブロンのパーフォレーションや、シボなどが見えてくる効果を狙っています。もちろん、すごく強い色を使った提案もプロセスの中ではありました。しかし、そういった強い色を使うと、そっちに目がいってしまって、細かいところの仕上げが見えなくなってしまうのです」と語る。

また、C5 Xの世界観を表現するにあたり、「強い色が合っているのかどうかを考えると、微妙なニュアンスのカラーの繊細さや、仕立ての細かさに注目してもらいたいので、あえて色は抑え目にしました」。しかし、「それはシトロエンでの1つの冒険、チャレンジでした。簡単に聞こえるかもしれませんが、色を落ち着けるというのは、シトロエンというブランドでは、すごく問われる場面です」と述べる。

柳沢さんは、C5 Xの開発において、「新しいブランドアイコンを考えることが大きな目的でしたので、とにかくたくさんのアイディアを出しました。まるで千本ノックみたいですが、特別がんばったところかもしれません」と振り返る。そして、「初めて全部のアイディアを詰め込んだインテリアを作った時に、シトロエンのロゴをベースにしたアイテムがいっぱいになってしまって、ちょっとやり過ぎじゃないかといわれましたが、やってみてよかったと思っています」とその完成度に自信を見せた。