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【マツダ3 新型】ハッチもセダンも再定義する…土田チーフデザイナー[インタビュー]

  • 《撮影 内田千鶴子》
  • 《撮影 内田俊一》
  • 《撮影 内田俊一》
  • 《撮影 内田俊一》
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第40回 2019-2020 日本カー・オブ・ザ・イヤーで惜しくも2位となった『マツダ3』新型。しかしそのデザインは“面で勝負する”非常に魅力的なものだ。そこで改めてチーフデザイナーにコンセプトから苦労話までを語ってもらった。

◆色気のある塊と、凛とした伸びやかさ

—-:マツダ3にはファストバックとセダンの2種類のボディタイプが存在します。まず初めにそれぞれのデザインコンセプトから教えてください。

マツダデザイン本部チーフデザイナーの土田康剛氏(以下敬称略):ファストバックは色気のある塊。これは東京モーターショー2017に出展した『魁CONCEPT』の時から変えていません。一方セダンは凛とした伸びやかさで、品格や様式などの意味を込めています。狙いとして“艶と凛と幅”を持たせました。

◆クルマ作りのルールを変える

—-:では、それらに込めた思いはどういうものでしょう。

土田:ファストバックは一目で惚れさせたいというものです。人が惚れるというのはどういうことか、それは一目惚れ、説明なしに惹かれるものです。クドクド説明されたら冷めてしまいますよね。それがファストバックです。そのために、今までのクルマ作りのルールを変えています。

例を2つ挙げると、ひとつはどのクルマにもショルダーがありますがこのクルマにはありません。その結果としてひとつの塊の強さに見えるようにしているのです。次にシャープなキャラクターラインもなくしています。そうすることで理詰めではない魅力が一目惚れにつながるのではないかと思いました。その結果、色気のある塊と呼んでいるのです。

◆様式“美”を求めたセダン

—-:セダンはいかがですか。

土田:セダンは凛とした伸びやかさというコンセプトを立て、それを達成するために様式美という言葉を選んでいます。様式とはフォーマリティ。ではセダンの様式は何か、それは昔からトランク、キャビン、ボンネットがある3BOXです。まずそこを描くことでセダンらしいクルマとなり、そこに“美”ですから伸びやかさや優雅さを描いています。

—-:その伸びやかさや優雅さをキャラクターラインで表現するのは比較的やりやすいと思うのですが、面で勝負をするとすごく難しいと思います。

土田:『アクセラ』が前世代(のデザイン)だとすると、物理的に全長を80mm伸ばし、それをトランクのデザインに使いました。これまでのCセグメントセダンはハッチバックにトランクをくっつけたようなもので、どうしても(様式として)セダンと呼びにくい形でした。それを脱したいのでまず後ろにボリュームをつけて、先ほどの様式を作ったのです。その上で、デザインとしてキャラクターラインではなく面で勝負するので、控えめですがセダンにもリフレクションを入れました。

ではなぜセダンは控えめな表現をするのか。それはセダンを求める人は保守的な人が多いからです。従ってドラスティックに、ドラマチックにやるのではなく、セダンの様式を守りながら、そこにマツダが今いおうとしているリフレクション、映り込みの表現をしている。それがマツダ3セダンの表現方法です。

◆コンセプトに忠実に表現

—-:その表現方法、つまりは面の抑揚だと思いますが、ファストバックとは変えているということですか。

土田:はい、変えています。

セダンとファストバックのホイールベースは同じです。そして、ファストバックはリアドアの辺りからフロントに巻き込むようにリフレクションが入ります。一方セダンは全長が200mm違い、フロントフェンダーから一本の伸びやかなラインを描き、全部長手方向にリフレクションが入るようになっているのです。

つまりセダンはホリゾンタルで水平。ファストバックは弓なりな面構成で全ての光がリアタイヤにかかるようにしているということです。

ベルトラインもインテリアは共用なので同じですが、セダンは伸びやかにしたいので、リフレクションの切り返しがホイールベースのセンターよりも後ろにあります。一方でファストバックは塊なので全部内側に寄るようにしている。そうすることでセダンは長く、ファストバックは短く見えるでしょう。そういうプロポーションの違いを作っているのです。

実はフロント周り、グリルやバンパーも変えています。セダンのバンパーは全て横方向でホリゾンタルな動き。ファストバックは全部ハの字にすることで下に重心があるように見せています。シグネチャーウイングやランプは同じですが、グリルもセダンは開口を全て水平方向、ファストバックはハの字です。これはコンセプトとして色気のある塊ですから縦方向を感じてもらえるように、セダンは伸びやかさなので、左右方向への表現を強調しているためです。

さらに細かいところではグリルパターンも水平方向で“キットカット”みたいなものを並べましたので、光が当たると水平方向に見えるでしょう。ファストバックは全部メッシュです。その狙いはハイライトを光らせずに黒にしたいからです。

とにかく、全てコンセプトに忠実にデザインしているのです。

◆苦労したファストバックの製造

—-:マツダ3のデザインで一番苦労したのは何でしょう。

土田:全てです(笑)。強いて挙げるならファストバックの製造ですね。紙と同じで鉄板はすごく薄いのです。それを整形しその状態を保持させるのはとても難しい。昔のクルマは鉄板を叩いて作っていたのでプレスラインは必要ありませんでしたが、今のクルマはプレスして整形しますので“折れ”がないとその状態を保持出来ずペナペナになってしまい、剛性が出ないのです。そこが一番苦労したところでした。

プレスラインはデザイン性とともに、強度を保つという意味合いもあるのです。形を塑性領域に持っていくためにやっていることもあり、つまりは折り紙と同じと解釈してください。

—-:ドラスティックにこのマツダ3からキャラクターラインがなくなり、完全に面で勝負になりましたね。

土田:そうです。おそらく造形力は我々の強みで、それを出していく戦い方です。

—-:一度、プレス関係の仕事をされている方に聞いたのですが、とにかくこのデザインを実現するのが我々の仕事だといっていました。

土田:そういう気概で仕事をしてくれるのがとても嬉しいですね。マツダのいいところは会社が小さいのでプレス工場と我々との交流があることです。おそらく他の大きなブランドは開発拠点と工場が別でしょう。従ってそういう交流も出来ないし効率に走るしかないかなと思っています。我々のメリットはそこですし、強みに出来ることだと考えています。

◆ファストバックとクロスオーバー

—-:今回デザイン案は何案ぐらい作りましたか。

土田:ファストバックは十数案、セダンは4案くらいです。ファストバックは相当悩みました。デザインのスタートはセダンです。というのは現行車で課題があったのはセダンだったからです。冒頭でお話したようにCセグメントセダンはトランクに違和感がありましたので、新型のセダンはどうしたらいいのか、とにかくセダンらしいクルマを作らないと、もうCセグメントセダンは生きていけないのではないかなと感じていたからです。

—-:しかし悩んだのはファストバックだった(笑)。

土田:これには背景がありまして、ファストバックの開発が始まった時くらいにショッキングな数字が上がってきたのです。それはハッチバックとクロスオーバーの数字がヨーロッパで逆転し、それが日本も同様になりました。そうなると今までハッチバックに求めていたお客様の期待値が、全部クロスオーバーに変わってしまったということになります。

ということはハッチバックに何か新しい価値を込めないと、もういらないといわれていることになってしまいます。そこでハッチバックが元々持っていた、セダンに対する価値をもう一度見つめ直そうと取りかかりました。

セダンをハッチバックユーザーから見ると何か様式にハメられて、退屈なクルマだね、僕はもっと自由でスポーティーでファッショナブルなクルマがいいよねということで選ばれていました。

それが今、クロスオーバーに変わったということは、もう一度スポーティーでパーソナルなところをとことん引き上げることで、そういうところを求めているお客様はいるのではないか。そこで魁CONCEPTを作ったのです。つまり投げかけのつもりです。従って最初にいった今までとは違う魅力を描いて、そして今までの一般的なクルマ作りのルールを変えてデザインしたのです。

—-:そこで難しくなるのはマツダの中にもクロスオーバーがあるということです。当然今回のデザインの考え方をクロスオーバーにも取り入れていくわけですからとても難しくなりますね。

土田:我々は『CX-30』を発売し、マスボリュームという意味ではこのクルマがとって変わると考えています。CX-30がそのボリュームを取りに行くことは戦略上見えていますので、マツダ3はスポーティでパーソナルに特化するという戦略を取ったわけです。

—-:ある程度そこの割り切りが出来ているからこのデザインに挑戦で来たということですね。

土田:その通りです。別府(開発主査)と私で戦略を作ることが出来たのが大きかったと思います。市場が変わってきた、Cクラスのハッチは死んでしまうかもしれないという時に、『CX-3』と『アクセラ』の関係でいうと、アクセラはマツダ3に置き換わり、CX-3の一部ユーザーをCX-30がカバーし、そのアクセラ・マツダ3とCX-3・CX-30のボリュームは逆転するでしょう。そしてCX-30はファミリーで一般的に使われ、マツダ3はスペシャリティと予測しました。そこで、マツダ3は過剰なパッケージングを追い求めませんでした。とはいっても荷室も現行から30リットルぐらいしか減ってはいません。

—-:ハッチバックもそうですが、このクルマが出ることによってセダンが復権してほしいという期待もあります。

土田:いち作り手、デザイナーとしてはセダンが下火だとかハッチが下火だとかいわれると、僕たちは仕事をしなかったのかなと思わないといけません。魅力を描けなかったのかなということですから、今回はセダンもハッチも再定義したいという思いでデザインしています。