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三菱『デリカD:5』18年目の大幅改良で「原点回帰」、期待されるフルモデルチェンジは? 開発責任者「デリカを終わらせてはいけない」
三菱自動車は12月18日、10月末に開催された「ジャパンモビリティショー2025」で初公開した新型『デリカD:5』を2026年1月9日に発売すると発表した。大幅な改良を挟みながらも18年にわたり販売され続けているデリカD:5だが、今回の改良のねらいとは。開発責任者に注目のポイントやこだわり、そして期待される次期モデルについて聞いた。
◆タフさやギア感を求めて「原点回帰」
商品改良する際にはそのクルマの強みや弱みを把握し、それも含めて開発がおこなわれる。今回のポイントのひとつに「エクステリアのデザイン」を挙げるのは三菱商品戦略本部チーフ・プロダクト・スペシャリストの藤井康輔さんだ。
「他社のミニバンがメッキパーツを使ってこわもての顔にしていましたので、前回の改良時には値段も少し上がることもあり、高級感を狙ってフロントにメッキを使いました。シェーバーといわれたグリルなどがそうですね。お客さまから支持は得た一方、特にデリカD:5の前期型のオーナーには刺さらず乗り換えが進まなかったんです」と振り返る。
そこで今回は、「メッキ部品をなくし、シルバーも金属調にするなどで原点回帰。ギラギラとした高級感ではなく、もっとタフさやギア感がデリカのお客さまは刺さると改めて認識し、採用しました」と説明。同時にデリカらしさは、「悪路でも安心して走れる部分が強みなので、S-AWCを搭載。とても要望が多かった仕様です」とのこと。
エクステリアではフェンダーガーニッシュを新たに装備。全幅で20mm拡大した。これもタフさやギア感を演出するためだ。「デリカD:5は、少し背が高い割に車幅はそれほど広くないので、どっしり感が弱かった。そこでフェンダーガーニッシュを付けました。本当はトレッドも広げてタイヤも太いものを履かせたかったんですが、燃費影響などもありメーカーとしてはやりませんでした」と藤井さん。しかし、デリカユーザーの多くは購入後ホイールやタイヤを変えることから、「(フェンダーガーニッシュがあることで)より格好良く乗ってもらえるでしょう。パッと見ての印象とともにワイド感も違いますから」と話す。
このフェンダーガーニッシュを取り付けるにあたってフロントフェンダーをスチールで新作するとともに、スライドドアのドアトリムも作り替えた。これはリアフェンダーの拡幅分をクリアするためだ。「サードパーティーがリアフェンダーの後付けパーツを出していますが、(スライドドアとボディとの)隙間が狭いのでメーカー基準ではOKを出せるクリアランスにならないんです」とのこと。
そのほかにもホイールデザインや前後バンパー、そしてリアゲートも変更することで、「よりタフなイメージを出しています」と述べた。
◆『デリカミニ』が支えるデリカ人気
いまデリカD:5の販売は好調だ。2019年の改良以降2024年は最高台数を記録。そして2025年はそれを上回る勢いだ。その要因は大きく3つあるという。
藤井さんは「あくまでも仮説」とした上で、「三菱のブランドイメージが、品質問題等で底にあったところから、徐々に回復してきていること」。続いて、「特別仕様車のシャモニーが好調なこと。ギラギラグリルをやめてシルバーか黒に変えたデザインが好評でシャモニーが売れています」。そこから今回のグリル変更につながった。
3つ目は『デリカミニ』の存在だ。軽ユーザーに対し、デリカミニを発売する前にデリカのイメージについてヒアリング調査を行ったところ、「特に女性を中心にアウトドアなどが好きなマニアの男の人が乗るクルマだというイメージがあり、デリカブランドは自分とは縁のない存在だと思われていたんです。しかしデリカミニの出現によってデリカブランド自体が(そういった女性たちとの)距離感が近くなって、デリカミニが入り口にデリカっていいよねという方が増えたんです」と分析し、「こういうシリーズ化は相乗効果もある」と改めて認識したそうだ。
◆次期型に受け継がれる「デリカの本質」
さて気になるのは次期型の話だ。藤井さんは言葉を濁し、「いろいろ検討していますし、いくつかのアイディアは持っています」という。実はこれまでフルモデルチェンジするたびに、「こんなのデリカじゃないと根強いデリカファンからいわれ続けてきました。しかし出たら出たでそこにまたデリカのファンがついてきてくれるんですね。でもきっとまたフルモデルチェンジしたらいわれるんだろうな(笑)」と藤井さん。
しかし、「本質としてデリカって何?というところはぶれないようにします」と強調。それは、「仲間や家族とともに楽しい時間を過ごせることが基本のコンセプト。そのためにアクティブな活動をしようとしても、安心・安全・快適に走れないとそういった楽しい時間は過ごせませんよね。そこで悪路走破性を追求しています。それはすなわち三菱車らしさでもあるんです」と述べる。従って悪路走破性はまず絶対に外せない。
しかし、「悪路だけガンガン行けるクルマではなく、家族が乗っても皆さん快適で楽しい会話ができること。その両立は外してはいけないと意識しています」という。そのうえで「そこに裏付けられたデザイン。いくら走破性があっても他社のミニバンみたいなデザインだったらデリカではないでしょう」と語る。
◆「デリカを終わらせてはいけない」
ではいろいろ検討しているその内容とはどんなものだろう。それは「環境規制やそれに伴うパワートレイン。そして国内専用車にするかどうかです」と明かす。
実は海外でデリカD:5のイメージが変わりつつあるという。「1BOXのスライドドアのイメージは欧州では商用車、ASEANでは送迎車でした。しかし少しずつ悪路も走れて大人数が乗れるというニーズが高まってきています。またASEANでは最近キャンプブームでもありますので、そこにうまく乗せられたら」と藤井さん。
実は中東のディストリビューターにデリカD:5を見せたところ、「是非欲しいといわれています」。しかし現行は国内専用であることからハンドルの位置だけでなく、法規による乗員一人当たりの体重が国によってまちまちで、それが8人乗りになると大きな差につながる。そうすると補強も必要になる。さらにASEANでは、関税の障壁も高く、現地生産も考慮しないといけない。これらを踏まえ次期型に向けて頭を悩ませているという。
ただし、「グローバルである程度販売したほうがボリュームを稼げるので、そのために新たなことができる可能性も広がります。ただしあまりグローバルを見過ぎると肝心の日本で(車幅が広くなるなどで)受け入れられなくなってしまう」とここでもジレンマがあるようだ。クルマの開発費は、「10年前の倍ぐらいの投資が必要な時代です。そういう視点では、国内でしか売ってないデリカなんてという意見も会社では正直に出てしまいます」ということからグローバル化は必須にはなりそうだ。
しかし藤井さんは前向きだ。「こうやっていろいろ考えられるということは望まれているクルマだということです。お客さまがすごく期待してくれていますので、非常にやりがいがあると思っています」といい、「特にデリカの熱いファンの期待に応えないといけないというプレッシャーはありますね。私の代でこのデリカを終わらせてはいけないと思っています」と力強く語った。












