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【マツダ CX-5 新型】反対を押し切った「一本のプレスライン」が生み出す妙、「原点回帰」めざしたデザインとは
マツダは「ジャパンモビリティショー2025」に3代目『CX-5』を出展した。マツダの重要な柱の1台であるこのクルマのデザインについて、チーフデザイナーに話を聞いた。
◆強いブランドに育てたい
マツダデザイン本部チーフデザイナーの椿貴紀さんは初代からCX-5のデザインに関わり、自身もCX-5オーナーということから、チーフデザイナーになって「きっと良いものができる」という思いとともにデザインに携わったそうだ。
まずは、「製品として良いものにしたい、感じていただきたいということが一番でした」と椿さん。「2代目はエレガントに上質にということで、Aピラーを30mm引いて全高を10mm下げたことですごく格好良くなりました」と振り返る。しかし、「初代CX-5を社員でも乗ってる人がいたんですが、2代目になかなか買い替えてもらえなかったんです」という。その要因は、「いま積める自転車が積めなくなるなどの理由でしたので、こういったことを改善して新しいCX-5を買ってもらえるようにしたい」と考えた。
もうひとつ、「マツダという会社名は知らなくても、CX-5という車名は知っているお客様が全世界にもすごくいるという話を聞いたんです。本当にすごく強いブランドだと思ったので、例えば『ロードスター』のようなひとつのブランドに育て上げたい。そうなるときちんとした進化が必要です。そういう意味で3代目も着実に進化をさせることで、CX-5とはこうだというより強いブランドにしたいという2つの思いがありました」と「おこがましいですが」と謙遜しながらも思いを述べる。
そのCX-5とは、「キモはスポーティなシルエット・スタイリングと機能性です。つまり格好良いけど使えるのがCX-5の価値なんです。そこは初代のチーフデザイナーである中山(前デザイン本部長の中山雅氏)と認識合わせができていました」。
また、「以前はCX-5が市場のど真ん中にいたこともあり、競合がディメンションを寄せてくるみたいなところがありましたが、いまは完全に抜かれてしまいました。市場やマーケティング部門から、“小さいから買わなかった”という声が近年すごく増えてきているんです」と明かす。以前はこのサイズが美点だったが、競合が大きくなっていく中で、「取り残されてしまいましたし、モデルチェンジもしばらくしていませんでしたので、もう一回キャッチアップしてしっかりと競争力を持たせていきたい。そのために格好良さはもちろん、機能性で劣っていたところをもう一度補ってしっかりと市場の中心に持っていきたいという思いです」と述べた。
◆1本のキャラクターラインの妙
サイズアップはデザインとしては有利に働きそうだ。「全部がサイズアップできたらいろんなことできるんですけど、今回は特にデザイナーとしてはあまり嬉しくない方向で、高くなって長くなったんです。本当は横に広がると嬉しいんですけど」と椿さん。
そこで実際に提示されたパッケージ通りにCX-5をデザインしてみたそうだ。「いまの良さはキープしながら、長く高くし、荷室の広さを確保するためにバックウインドを立てました。そうすると本当にこれをやるのかと思ってしまうような出来でした」と椿さん。しかし、「デザイナーとしてこれを何とか飲んで格好良いものにしてやりたいと、燃えました」と気合が入ったことを明かす。
先ずベルトラインは水平をキープすることで伸びやかさを表現。しかし、リアフェンダーのボリュームが薄くなってしまうので、Cピラーの付け根とホイールハウスの間を圧縮することでボリュームをキープした。
もうひとつブレイクスルーがあった。それはフロントドア下端の斜めに入るプレスラインだ。リアに伸びた一方、フロント周りはあまり変えていないことから「頭でっかちに見えてすごくバランスが悪いなと思っていたんです。そのときにあるデザイナーがこの線を入れた絵を描いてくれて、それをモデル化したら急にバランスが取れた感じがしたんですね」。
そう感じた理由を椿さんは、「全体を後ろに引っ張っていますからキャビンが大きく長く見えますよね」。一方でフロントの長さはほとんど変わらないことから頭でっかちに見えたそうだ。「そこでこの斜めのキャラクターラインを入れることで、その位置までがフロントパートに見えているんです」。つまりこのキャラクターラインを入れることでフロントをより長く見せたわけだ。
ただ、社内からは猛反対があった。「社長の毛籠や前田(シニアフェローデザイン・ブランドスタイル監修の前田育夫氏)に見せた時に、お前ほんまにこれやるんか、いらんだろうといわれました」。しかし椿さんは、「これは絶対必要なんです、やらせてくださいと、直訴してやらせてもらいました」と執念を見せた。
その背景には、「プレスライン1本でキャビンの大きさを許容できるのであれば、僕は安いもんだと思うんです。これをなくすが故に、キャビンのバランスを変えるのはどうしてもやりたくなくない。それは機能性という価値が伸ばせなくなるからです」と説明した。
◆にやにやしたくなるリアフェンダー
スポーティ性を強く見せる方法としてウェッジシェイプにすることもあったはずだ。椿さんは、「そういう手法もあると思うんです」としながらも、「ウェッジさせるとサイドビューは良いんですが、リアクォーターに回ってみると窓の位置は高くなりますよね。そこにフェンダーがしっかりと張り出していれば良いのですが、Cピラーの付け根からリアフェンダーの間が開いてしまいますので薄っぺらに見えてしまうんです」と述べ、前述の苦労が水の泡になってしまうことを示唆。
椿さんは、「エクステリアはクルマを選ぶときは重視しますが乗っているとほぼ見えませんよね。でも唯一ドアミラーからリアフェンダーが見えるんです。欧州のスポーツカーやマツダ『ロードスター』に乗ると、リアフェンダーの抑揚が見えるんで、僕はにやにやしてしまいます。ですからここはどうしてもCX-5でも欲しかったんです」とこだわりを語る。
◆原点回帰
椿さんは、「2代目は、魂動デザインが次のステージに向かうタイミングだったので、デザインに思いきり振ったところがあったと思いますので、SUVとしての機能性からは少し離れてしまったかもしれません。それをもう一度、いろんなことに使えるSUVに戻すという意味では、原点回帰といえるでしょう」。
そうすると、魂動デザインのスタートだった初代CX-5という位置付けと同じ役割を、3代目も担っていることになるのだろうか。椿さんは、「そこはまだフェイズ2のかなり後ろの方だと思います」とコメント。「奇しくも、CX-5はそういうところにいるクルマなんですね。今回もどちらにいるかなというと瀬戸際にいる感じで、これから変わっていくというイメージです」とのことだった。












