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『バンディット』のフロントマスクは「打ち上げ花火」!? スズキ『ソリオ』開発デザイナーが語るマイチェンへの葛藤と探求
スズキの人気トールワゴン『ソリオ』と『ソリオバンディット(以下バンディット)』が1月に実施したマイナーチェンジでは、両車のデザイン上の差別化をより強く意識して開発されたという。
特に大きく変わったのがバンディットのフロントマスクだ。高級ミニバンのトレンドを踏襲したような、押し出しの強いデザインとなっている。ここまで大きく舵を切った理由や、これを実現するためのこだわりについて、デザイナーに話を聞いた。
◆バンディットは「打ち上げ花火のようなインパクトを」
ソリオのデザインを担当したスズキ商品企画本部 四輪デザイン部 エクステリアグループ係長の石川猛さんは、改良前のソリオとバンディットのデザインについて、「ソリオはすごく端正でハンサムな顔立ちのクルマ。バンディットもなかなかかっこいいなと思いつつ、おそらくミニバン市場では、メインストリームとはちょっと違う顔立ちで攻めているなという印象」だったと分析する。
そこで、バンディットの改良新型をデザインする際には、どう評価されているかのリサーチを行った。その結果から見えてきたのは、「迫力や高級感、カスタム感が弱い」ということだった。
「そのカスタム感とはまさにミニバンの王道的なものか、あるいはもっとSUVライクなものかなどを考えたのですが、バンディットにもしSUVライクさを加えるとたぶん困惑されてしまうでしょう。そこでミニバンの王道に絞って開発を進めました」と石川さんは話す。そこで、改良新型のデザインの方向性も“迫力と高級感”を強調したものとされた。
市販デザインに向けたデザインスケッチを選ぶときにも、「迫力が弱いなと感じたものはかなり割り切って落としました」と石川さん。審査会では、「いくつか案がありいずれも好評だったのですが、ちょっとだけ“おっ!”と審査する人がのけぞった案があったので、これに決まるだろうなと思っていたらその通りになりました」と打ち明ける。
「少し物足りないぐらいだと多分ダメだろうというのが、役員をはじめみんな意識していたのです。実は最後に2案ぐらいで意見は割れたんですが、決め手は良い意味での打ち上げ花火のような強さ、インパクトを大事にしたいと今回の案が選ばれました」
一方で、「かなりコスト的に難しい面があったのですが、そこで妥協してこの印象をちょっとでも弱めてしまうと、このバンディットは上手くいかないかもしれないというプレッシャーは強くありました」と当時を振り返る。
◆このグリルを成立させるための「小・少・軽・短・美」
では、その迫力と高級感をどう表現していったのか。石川さんは、「今までの上下2分割されたような立体構成のフロントグリルから、薄目で見れば下まで突き抜けたような、大きな立体としてのグリルで迫力を感じさせるようにしました」という。
また高級感については、「メッキや、ツヤ黒、材着の黒樹脂という3つの見え方の違う素材を使うことで、素材のコントラストで表情豊かに見せることにこだわりました。光があたることでいろいろな表情が見えてきます。つまり遠くから見るとド迫力で、だんだん近くに寄っていくと大味ではなく、意外と細かく仕上がっているという印象になっています」と説明する。
ただ実現にあたっては苦労もあった。「このグリルは他の機種に比べて部品の構成や点数が数倍多くなってしまい、コストにも影響することがわかりました。どうやって組み立てるかなどを含めて苦労しましたし、スズキは『小・少・軽・短・美』を企業理念としていますが、そこからも離れてしまう気がしたのです。ただ、このグリルを成立させるための小・少・軽・短・美と考え方を変えました」という。
特に表情を一新したのがバンディットだが、そこに至るまでの葛藤はなかったのか。
石川さんは、「賛否両論出るだろうとは思っていました。(現在のミニバンの)王道の顔立ちの路線に振り切るというということは、その世界に正面玄関から突っ込むような形になるわけです。そこにあるのはヒエラルキー。ソリオはコンパクトさが強みですから、変に日和ったところがあるとダメなんですね。ですから絶対にコスト上がるだろうと怒られても、若手の原案をいかに変えないかにこだわったんです。その情熱があったからこそこういう迫力のある形が出てきたわけですし、これはお客様の期待にも直結するんですね。ですから原案のスケッチを忠実にカタチにしたつもりです」とこだわりを語る。
因みに2案残ったもう一方について石川さんは、「両方共通しているのは大型のグリルです。そして違いは縦基調か横基調かでした。実は横基調の方が少しおとなしく見えたのと、ソリオが横基調ですので、縦基調の方が対比もできて、それぞれのキャラが立つだろうと現在の案が採用されました」と話した。
◆ユーザーの間口を広げるためのソリオの進化
大胆にイメージチェンジを果たしたバンディットに対し、ソリオはこれまでの評価が高かったことから、「大きな印象は変えずに、より伸びやかで堂々とした印象にすべく、いろいろな造形の特徴を少しずつ切り替えて、リフレッシュさせています」と石川さん。
具体的には、「表情豊かなボディサイドのデザインなどは今回変えられませんので、そういう良さは生かしています。そのうえで伸びやかで堂々とさせるために、フロントのメッキの部分を天地にできるだけ広げるような形でレイアウトして、顔自体のグリルを塊としての印象を与えることで大きく見せています。そうすることで堂々とした佇まいにもつながっています」と説明。
特に横方向に流れるグリルのメッキの造形は特徴的だ。石川さんは、「まず両端の斜めの線は角度によってバラバラに見えないようにしています。多くのクルマのグリルはメッキの面が正面に向いていますが、このソリオは、あえて面が少し上に向いているんです」と話す。
そこで苦労したのが映り込みだ。「空が映り込むのは良いんですが、ちょうどSマークの下にカメラがあるので、それが映り込んでしまうと、グラフィックがブツッと途切れてしまうんです。どの角度がいいのか、表面の丸さも含めて徹底的にこだわりました」。
石川さんは、これを正面に向けることもやむなしとも考えたが、「それだといままでの機種の延長線上にしかならないんですね。今回はバンディットを特有の世界に突き進ませましたので、ソリオはいままでバンディットのお客様が求めていた“ちょっとスタイリッシュ”なデザインが欲しいという層も取り入れ、お客様の間口を広げる目的もあったんです。その結果、バンディットは思い切り振りきれたともいえるんです」とコメント。
また、Sマークとステレオカメラに関してはもうひとつ苦労が潜んでいた。「カメラの角度がコンマ数度動かしただけでも画角が干渉してしまって、アラウンドビューカメラなどが上手に機能しなくなってしまう。ですから最後の最後まで調整しましたね」と教えてくれた。