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【MaaS体験記】大阪・関西万博に向け浮き彫りになった、自動運転の課題

  • 《写真撮影 坂本貴史》
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今回の取材は、大阪湾にある人工島・舞洲で実施された自動運転移動サービスの実証実験だ。2025年に予定されている大阪・関西万博の会場予定地である人工島・夢洲に隣接した場所で、3月1日から4月26日の期間、大阪メトロなど計10社で自動運転バスの走行および遠隔監視業務の共同実験が行われた。今回は、舞洲の実験会場で実際に参加して、さまざまな自動運転技術を体験してきた。

大阪メトロなど数社が共同で取り組む社会実験
今回の実証実験は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会および大阪商工会議所が公募した「夢洲における実証実験の公募」に、大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)やパナソニック、NTTドコモ、関西電力など数社が共同で提案し採択されたものだ。

実証実験では、万博会場を想定した1周約400mのテストコースを整備し、万博会場内外の輸送におけるレベル4を見据えた自動運転車両を複数台運行させることで、自動運転走行の一元管理の課題抽出と、非接触充電による電動モビリティへの充電制御に関するエネルギーマネジメントの技術検証を行い、より渋滞の少ないエネルギー効率のよい次世代都市交通システムの構築を実証した。

具体的には、MaaSアプリ・顔認証、自動運転、車内コンテンツ、低速自動運転・パーソナルモビリティ、モビリティの管理、信号協調、道路での非接触充電・発電、保険・リスク管理など、計11にもおよぶ検証テーマを一般参加者にも体験してもらいながら約2か月間実施された。

舞洲での実証実験体験ツアー
ツアーでは「Osaka MaaS社会実験版」アプリで事前予約をし、コスモスクエア駅に着くと、ティアフォーが技術提供をしたJPN TAXIの自動運転車両がお迎えしてくれる。これで実証実験会場までの公道およそ6kmを自動運転車両(自動運転レベル2)で往復する。途中、万博会場として工事中の夢洲を通り過ぎた。

舞洲の実証実験会場に到着すると、大きなテントがあり顔認証(パナソニック)で受け付ける。テストコースではいくつものモビリティが動いていたが、そのうち一番目につくのがBOLDLYの自動運転バス『NAVYA ARMA』だ。茨城県境町や羽田空港で運行しているものと同じEV車両で、運行ダイヤを事前に登録することで発車や停車、ルートに沿っての自動走行ができる。

なお、今回の実証では信号機とのシステム連携はしていないため、車内にいる乗務員が手元のコントローラー(Xbox用コントローラー)で手動制御している場面があった。コントローラーのLボタンとRボタンを押すだけで自動走行と手動が切り替わるのでゲーム感覚で操作できる。NAVYA ARMAのメーカーがあるフランスでも同じ状況のようだが、障害物を避けて自動で車線変更するなどは現状はできない。

次に、ドコモバイクシェアの電動アシスト付き自転車と長谷川工業の電動キックボード「MaxPlus」を配備したエリアへ行き、電動キックボードでテストコースを試乗したあと、B&PLUSが提供する非接触充電スタンドの説明を聞いた。シェアサイクルや電動キックボードのポートは東京でも多く見られるようになったが、夜間に回収して充電するといった運用上の課題がある。今回の実証のようにポートで充電できるようになれば、回収も不要となりさらに効率的な運用ができそうだ。その上、この非接触充電スタンドは、電動アシスト付き自転車と電動キックボードのどちらにも対応しており、スムーズに停車と充電ができるよう共通化されている。

その横には、自然循環配慮型路盤・舗装と太陽光発電歩道の実証場があった。自然循環の舗装は数年経つと自然に還る高耐久な土系舗装だ。保水性がありヒートアイランド現象を緩和することができる。また、太陽光発電というと広い場所で多くのパネルを並べるイメージがあるが、今回の実証では、東京ビックサイトでも見ることができるもので、舗装型ソーラーパネルだ。デッドスペースに見られがちな歩道にパネルを埋め込むことで、日中に自発電して夜間にLEDを発光することができる。夜間の街灯や店舗の電力にも応用できるため、万博会場において再生エネルギーの新たな活用方法としても期待ができる。

電動車いすや配送ロボット、低速自動運転モビリティ
ひときわ会場内で目を奪われるのが、パナソニックが提供するロボット型電動車いす「PiiMO」だ。ガイドが操作する先頭の後ろに4台が追従するため、まるでカルガモ親子の列に見える。WHILL株式会社の電動車いす「Model C」に、パナソニックのセンシング技術や自動追従技術等を追加搭載して製品化したものだ。試乗すると、何もしなくても先頭に追従走行するので万博会場内での周遊や移動に活用できそうだ。今回は、親機にあたる先頭車両に遠隔監視用カメラを取り付け遠隔操作を可能にしたと言う。また、PiiMOのボディを配送用に変えた自動搬送ロボット「HAKOBO」も会場内を回遊していた。信号で止まり障害物を回避するなどを遠隔で操作している。

関西電力とゲキダンイイノ合同会社が提供する低速自動運転モビリティ「iino」では、走行中にEVの給電ができるEV向け給電システムを公開し、低速走行中に給電する様子をランプのオンオフで実演して見せた。路面にこうした給電システムが配備されることで、電動モビリティの電気残量を気にする必要もなくなる。自動車時速5kmの低速走行のため歩きながらフラッと乗り合わせることが可能で移動型のエスカレーターのようだ。実際に、神戸三宮などでも実証をおこなっており移動体験を豊かにする取り組みとして注目できる。

群管理すること、その課題
昨年5月に採択された今回の実証実験は、大阪メトロと数社で共同提案したものだ。コンソーシアムをつくり、それまでにも各社で勉強会を実施したりした経緯がある、と大阪メトロ交通事業本部MaaS戦略推進部次世代モビリティ企画課係長の岡本夏葉氏は話す。大阪メトロの自動運転関連での取り組みは、2019年にグランフロント大阪周辺および夢洲を含むベイエリアでも実証実験をしており、オンデマンドバスについては、2021年に大阪府平野区と生野区ではじまり、4月から福島区と北区でも展開する。

今回の実証実験のねらいは、群管理することだと言う。これまで、1台や個別に管理していた車両管理システムを統合し、複数のモビリティを同時にモニタリングし管理することは、大阪メトロはもちろん各社もはじめての取り組みだと言う。今年の秋頃には同じ場所でもう一度実証実験を予定しているが、そのときにはモビリティの台数はさらに追加をしていく予定だと言う。

一方、複数のシステム統合・連携をするうえで、ネットワーク環境の問題がある。万博会場となる夢洲および実証実験の会場がある舞洲では現在5G通信はできないため、今回はNTTドコモの移動基地局車を配備して遠隔監視用に活用している。複数台の映像を遅延なくリアルタイムで配信するには5G通信が必須となるからだ。なお、参加者のスマホ端末が5G対応していない場合はもちろん5G通信はできない。

遠隔監視室で一番印象に残ったのは、監視者1人に対して5台の液晶ディスプレイ(監視映像・モビリティ位置・操作用映像など)を同時にモニタリングしながら、遠隔操作をコントローラー(ゲーム用コントローラー)からしているマルチタスクな操作風景だった。もちろん今回の実証では、技術的なシステム統合の意味合いが強いとはいえ、複数台を1人で管理するのには限界があるようにおもえた。台数に対して人を減らすことは効率的に見える一方、一般人が多く往来している万博会場ではたして問題なく管理ができるかは疑問が残った。

大阪・関西万博に向けて
大阪メトロの岡本氏は「これまで自動運転に触れていない人にぜひ体験してほしい」と話した。自動運転を経験したことがある人は一体どのくらいいるだろう。「自動運転」と一口に言ってもさまざまだ。今回の実証にあったように、ドライバーが乗車したうえで自動運転システムに任せる場合や、乗務員が遠隔で操作するもの、監視者が遠隔で操作するものなどさまざまだ。現在、国内ではドライバーが監視することを前提にした自動運転レベル2までが主流だが、今回の実証で体験できた自動運転システムはごく一部に過ぎない。

ただ、複数台の自動運転車両を運行させることによる課題抽出が今回の目的でもあり、その面では今回の取り組みによる成果は大きい。とくに、複数台の車両管理には今回の遠隔監視室で見れたように専門人材の育成が急務といえる。自動運転システムの統合は、規格が揃えば実現は可能になるが、専門人材の育成にはそれなりに時間がかかるはずだ。自動運転技術の進化は早いが、それを支える人材の育成のほうが急務になってくるのは、どの業界にもある共通の課題だろう。

大阪・関西万博まで3年を切った今回の実証実験では、自動運転をとりまく環境(車両・システム・インフラ・人など)をさまざまな視点で体験することができた貴重な一日になった。秋頃には同じ場所でもう一度実証実験を行うと言う。今回の実証実験を経て、どのように進化していくのか楽しみだ。

■3つ星評価
エリアの大きさ★☆☆
実証実験の浸透★☆☆
利用者の評価★★☆
事業者の関わり★★★
将来性★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長

グラフィックデザイナー出身。
2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。