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【三菱 デリカD:5 新型】12年経った今、なぜビッグマイナーなのか[商品企画担当インタビュー]

  • 《画像 三菱自動車》
  • 《撮影 雪岡直樹》
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  • 《画像 三菱自動車》
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三菱自動車のオールラウンドミニバン『デリカD:5』が大幅なマイナーチェンジを受けた。12年目となる今、なぜフルモデルチェンジではなくマイナーチェンジなのか。また、今回の改良に至るポイントは何か。商品企画担当である、三菱商品戦略本部CPSチーム(C&D-seg)商品企画主任の渡邊怜子氏に話を聞いた。

◆踏襲できるものはそのままに

—-:今回のデリカD:5は、大幅なマイナーチェンジという位置づけでよろしいですか。

渡邊怜子氏(以下敬称略):はい、発売後12年目ということもあってフルモデルチェンジというのも考えてはいたのですが、会社の経営資源ととともに、現行で評価されているところ、例えば四駆性能であったり、リブボーン、AWCといったところはそのまま踏襲しよう考えたのです。そうすると、果たして莫大な投資をしてのフルモデルチェンジが本当に正しいのかという考えに至りました。踏襲できるものは踏襲した結果として、会社としての判断はビッグマイナーチェンジとなりました。

正直申し上げると、我々としてもフルモデルチェンジをやりたかったのは事実です。パネルも変えたかったですし、フルモデルチェンジでこそできたこともたくさんあります。例えば3列目シートの跳ね上げも工夫をしたかったのです。デリカD:5は平日、女性が運転することも多いのですが、3列目シートの跳ね上げはとても重くて大変です。そこを改善したかったのですが、これをやるためには、パネルを強化したり、バネを強くしたりしなければいけません。そうすると今度はボディ剛性をいじめてしまうなどと色々課題が出て来ます。その結果、マイナーチェンジではないとできないということになりました。

そこで今回は、ビッグマイナーの中でできる最大限のことをやろうと。外観もかなり変わりましたし、弱点だったインテリアの質感もかなり高くなっています。静粛性や乗り心地の良さもかなり良くなっているので、気持ち的にはフルモデルチェンジなみの完成度だと思っています。

◆質感の向上は必須

—-:今回の改良で一番やりたかったことは何ですか。

渡邊:質感の向上です。現行車は12年前にローンチされていますので、その間に他のミニバンがマイチェンやフルチェンをしていった結果、取り残されたのが質感や先進安全装備系なのです。

12年前にデリカD:5が出た当初の我々の想定としては、お父さん自身がこのクルマに乗りたいからこれを買う、家族の意見よりも自分の意見という位置づけでした。そこから10年以上経つとその価値観も変わってきて、今や女性の了承なしには買えなくなっています。そのときに一番引っかかるのが質感です。

フロント周りのデザインなどはそれほど気にはしないのですが、内装の質感やシートの感じとかカラーバリエーション。そうすると300万円代後半のクルマとして、これまでのプラスチッキーな感じだとどうしても女性のOKは出なくなるのです。販売会社などで非購入理由を聞くと、奥様からそこがダメという声が結構多くあました。その声は、商品企画だけではなく開発やデザインにも届いていましたので、もうプロジェクト関係者全員がなんとかしないといけないという意識のもとに、インテリアの質感向上に取り組みました。

また、静粛性の向上に関しても、現行車は結構うるさかったのでかなり良くなっています。このように今回は割と女性視点を大きく取り入れました。

◆デリカネスとのバランス

—-:新型でも悪路走破性の高さなどが強調されており、そこがデリカD:5のUSPだと聞いています。一方で、今お話にあったように、非購入理由としては悪路走破性よりも室内の質感などを重視して別のクルマを購入しているとのことですね。しかし、悪路走破性を落としてしまうとデリカD:5である必要は全くなくなってしまいますので、その両方のバランスを取るのは難しいと思うのですが。

渡邊:その通りです。今回はビッグマイナーチェンジということもあり、改めてデリカD:5の軸となるものを確立させようと考えました。現在、四駆のディーゼルが9割近く売れている状況を踏まえると、トルクフルな走りや悪路走破性、走行安定性といったところが“デリカネス”であるという結論に達しました。そこはどうあっても落としてはいけない軸として置きました。

この軸をぶれないようにしながら、デリカD:5の弱点を克服しつつ、新しいクルマを作っていこうと関係者全員が共通認識として持っていました。つまり、決してデリカD:5が他のミニバンに近寄るのではなく、あくまでもデリカD:5はデリカD:5でありながら、内装の質感などで取り逃がしてしまったり、見てもらえなかったりした人達にもうまく見せていきたい。そのうえで、特に最近は異常気象が起きたりしますので、デリカD:5であれば深みにはまっても走ることができる、こんな悪路にも行けるなど、きちんと走れる四駆というのがデリカD:5の根幹にあることも伝えていきたいのです。

◆フルモデルチェンジにつなげていくために

—-:現行のデリカD:5ユーザーからはどう捉えられると思いますか。

渡邊:我々は見慣れてしまったのもあり、それほど違和感は覚えませんが、現行デリカD:5に乗っている人たちに聞くと、随分「攻めた」といわれます。

デリカの歴史を紐解いていくと、『デリカスターワゴン』から現行デリカD:5になったときも、デザインに関しては賛否両論でした。それでも12年間も作り続け、モデル末期にも関わらず月販1000台を維持しているのはすごいことだと思います。確かに他のミニバンに比べたら数は少ないのですが、色々なことにチャレンジしていくのがデリカの歴史なのかなと思うと、今回もうまく乗り越えていくと期待しています。

インテリアも上質になりましたので、今までのデリカにあった“ギヤ”感や道具感が損なわれたという声もやはりあります。我々としてはデリカネスを大切にしたいというところもありましたので、そこがすごく難しいところでした。そういった道具感をそのまま残していれば今の月販1000台は多分維持できるでしょう。ただし、新しいデリカD:5の魅力をもっと多くの人に知ってもらって、次のフルモデルチェンジにつなげていきたいのです。そのためには今の台数規模だと難しいところもありますので、あえて今回挑戦することにしたのです。

◆デリカネスはディーゼル四駆

—-:ラインアップを見るとディーゼルのみとなっていますね。

渡邊:はい、かなり思い切りました。これまではガソリンとディーゼル、二駆と四駆とありましたが、ディーゼルの四駆が全体の9割売れているということを考えると、資源を集中させてお金をかけるところにきちんとかけることにしたのです。確かにガソリン車を求めているユーザーがいるのは事実ですが、デリカネス、デリカらしさというところって何?と究極に突き詰めていくとディーゼルと四駆を組み合わせた走りの強さに行き着くのです。そこで今回は割り切って、弱点となって足りなかったところにお金をかけさせて欲しいと判断しました。

—-:今回は基準車のほかに「アーバンギア」を追加設定しましたが、その理由について教えてください。

渡邊:『アルファード』や『ヴェルファイア』といったトヨタ系のギラギラ系のミニバンにはちょっと抵抗はあるものの、ワンランク上の車格感や押し出し感、強さみたいなものは欲しいというお客様はいらっしゃいます。そういう人たちにうまくはまらないかなとアーバンギアを設定しました。

例えば使わないのだけれどもダイバーズウォッチを持っていたいとか、使わないのだけれども防水のゴアテックスのジャケットを持っていたいなど、本物感を求められる方がいらっしゃいます。アーバンギアはそこに上品さや洗練された感じも加えていますので、いわば、アウトドアウェアを街中でも着こなすようなイメージで作り上げました。

—-:最後になりますが、デリカは初代から一度も名前が途切れることなく続いており、ブランドの重さはかなりあると思います。この担当になったとき、プレッシャーを感じませんでしたか。

渡邊:はい、ものすごくプレッシャーがありました。歴史も長いし根強いファンもすごくいて、小手先だけのことをするとばれてしまいますので、真剣に向き合いました。ずっと続いてきたデリカ50周年の歴史を途絶えさせてはいけませんので、すごく難しかったですね。