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電動化は免罪符なのか? IAAモビリティで欧州車に感じた「変化の潮目」とは

  • 《写真撮影 南陽一浩》
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久々に開催された国際規模のモーターショーで、しかも初回ホストタウンとなったミュンヘン「IAA MOBILITY(IAAモビリティ)」。メッセ会場の芝の上にワーケーション・スペースのような場が設けられたのも、コロナ以降らしいモーターショーだった。とはいえ、そこで感じた変化を消化するのに、かなりの時間とエネルギーを要した。

地元のドイツ・メーカー勢はここ数年の基調通り、おしなべて主役はBEVという展示に終始した。アンゲラ・メルケル首相の勇退を控え、おそらくはドイツ自動車業界ロビーの配慮として9月末の連邦議会選挙で与党CDUにネガティブな影響のひとつも与えまいとする、ローカルな理由もしくは忖度も多分にあっただろう。

IAAではメッセ以外に、市街にも特設ブースが数々設けられたが、スポーツ色の強いポルシェとアウディのブースはプレスデイ初日は建て込みの真っ最中で、展示車両がオンラインでなくリアルで公開されたのは2日目の午後遅くだった。

また次世代モビリティや自動運転車両などを体験しながら会場と市街の特設スペースを結ぶはずの「ブルーライン」も、告知されていたが実施はされておらず、IAA初回は自動車ショーとして多分にβ版じみた側面があった。

◆電動化は免罪符なのか?

それにしても、欧州の他地域に比べれば概して大排気量で、アウトバーンをぶっ飛ばして時間をハイパワーで贖うような利便性を追求し、同時にスピードの快楽にあれだけ淫してきたドイツの自動車業界が、急速に翻ってカーボンニュートラルを掲げてBEVに傾注する様子は、まるで宗教改革の時代に、それまで奢侈と放蕩を享受していた当時の人々が、教会から免罪符を我先に買い争った様子とダブる。

改革者ルターに代わったのはEU委員会ではない。むしろEU委員会こそがCO2超過課金制度、つまり欧州内のカーボン・クレジットの元締めであることを鑑みれば旧教会勢力に相当するという図式で、イーロン・マスク辺りが改革者と映っているのではないか。いずれ宗教改革は旧教と新教の分断をもたらし、さらには内戦と諸外国の介入、そして三十年戦争という国土の荒廃に繋がった。

少なくとも今の技術レベルのEVとアウトバーンは、相性が悪い。長時間の高速走行を続けることがバッテリー電力の消費という点で、BEVがもっとも不得手とする走り方だからだ。9月末のドイツ連邦議会選挙の結果を受けて、CDUが第2党に後退し、例によって連立が模索される中で、第3党となった緑の党が第4党の自由民主党と同じくキャステインングボードを握った今、モビリティや環境政策においても、守旧派と革新派の対立はますます先鋭化していくだろう。

ただ、IAAのプレスコンファレンスで主要メーカーやメガサプライヤーが発表していたカーボンニュートラルに向けての目標値は、ボッシュが2035年に60%減と発表したが、これが他の自動車メーカーやサプライヤーもほぼ横並びのコンセンサスだった。

EU自体はパリ協定で、2030年に1990年比の55%以上を目標としてコミットしているので、ペース的にも量的にも微妙なラインだ。そもそも2030年代半ばにもCO2排出する自動車、つまりICE搭載車が市場に存在する見込みを暗に認めてさえいる。いわば電動化は欧州のメーカーにとっても、手段であって究極の目標ではないのだ。

◆高級車ほど自動運転を欲している

かくして、ここひと月の間の出来事を念頭にIAAをふり返ると、あの時、多くの出展メーカーが何を守ろうとしていたか、より鮮明に見えてくる。HVかMHEVかPHEVかBEVかという、電動化の程度のあえて高くないPHEV、つまり「免罪度」の高くない内燃機関をも用いた市販モデルとしてあえて際立たせたのは、メルセデスAMGの『GT 63S Eパフォーマンス』ぐらいだった。

EVにおける「ハイエンド・スポーツ」という古典的な提案は、BMWの『i4』やコンセプトにまで範囲を広げてようやくポルシェの『ミッションR』が挙がる程度。アウディのコンセプトたる『グランドスフィア・コンセプト』はGTには違いないが、レベル4を前提に格納式のステアリング・ポストを備えるなど、従来の「スポーティな」グランツーリスモとは甚だ異なる。ごく洗練されたリビングの延長か、ファーストクラス体験を約束するプライベートな移動ラウンジといった趣で、自ら操る楽しみは否定しないものの、ほぼオプションといえた。アウトバーンの国でも、運転ではなく、車内空間それ自体が目的化し始めているのだ。

「車内空間におけるクオリティ・タイム」という方向性は「乗員にとって豊かなエクスペリエンス」に結びつけれらる。平たくいえば、搭載されるタッチスクリーンの大きさに比例するかのようだ。メルセデスベンツ『EQE』は、『EQS』と同様にダッシュボードの端から端までがタッチスクリーン化させた内装だった。

また日産『アリア』と共通でBEV専用プラットフォームとして発表されたルノーの新型『メガーヌ』も、欧州Cセグメントとしては例外的に巨大なタッチパネルを備えてきた。意外だったのは、ボルボの電動モデル専用プレミアム・ブランドであるポールスターだ。テスラ『モデル3』の有力な競合モデルと目されている『ポールスター2』の市販バージョンを、ついに公開したが、ボルボに通じる内装と、縦型センターモニターとメーターディスプレイはEVとしては珍しくコンサバに見えるほどで、守旧派と革新派の、好み・嗜好のバランスを巧みに突いたともいえる。

市販車はe-SIM搭載とデータ収集を前提に端末化し、運転支援機能が賢くなるほどに、車内エクスペリエンスの質はインターネットへの接続性や画面の大きさに依存していく。とはいえEQEもメガーヌも、フロア下にバッテリーを並べつつ前衛投影面積は削りたいがためにルーフは低く、後席の座り心地はやや体育座り気味で、室内の居住性という意味では従来のICEを超えていない印象だった。いずれ本命は、これらのEV専用プラットフォームから派生するSUVかもしれない。SUVブームは空力やカーボンニュートラルとは相容れないまま、継続されるのだろう。

◆小型車はEV化でローカル化するのか

もうひとつIAAで確認できた傾向は、Bセグ以下のスモールEVコンセプト。加えてバッテリー生産体制を強化するだけでなく、再生産まで含めた循環型モデルを確立しようという流れだ。BMWは『iサーキュラー・コンセプト』という、一体成型しやすくリサイクル可能な素材を用いたスタディを展示したが、内装はまさかの、バイエルン伝統のバロック様式をモダン解釈。

フィジカルとデジタルをかけ合わせた造語として「フィジタル」、そしてエモーションとレスポンサビリティの両立を訴求した。またVWは『ID.5 GTX』のような市販に近いコンセプトとは別に、『ID.ライフ』という2万ユーロ以下で航続距離400kmを目標とする、都会的なスモールSUVのEVコンセプトを披露。ファスナーで脱着可能なルーフ以外にも、ゲームや映像コンテンツの楽しめる車内エクスペリエンスに焦点を当てていた。

他にもダイムラー・グループからはスマートが、『コンセプト#1』というEVパワートレインとデジタライズに最適化したプラットフォームのスタディを発表し、ルノーはオンラインで発表していたEVコンセプト、『R5』を展示した。ルノーはこれまでエンジン生産の一大拠点だったフラン工場を「エレクトリシティー」の一環として、バッテリーなどのリサイクル拠点に大転換する計画を発表している。資源として量を確保しづらいリチウムイオンバッテリーに頼るのではなく、ニッケル/マンガン/コバルトといった資源を自社サイクル内部に留めて使い回すことで、電動化を持続的に進めようという話だ。

同じ頃に、日本で200万円前後の軽自動車EVが取り沙汰されるのも偶然ではないだろう。軽自動車と同じく、都市間移動よりも地域内コミューターとして乗られやすい欧州Bセグ以下のスモールカーは、リサイクルや独自規格が前提となれば、グローバルに輸出されるより、各市場・各地域内で消費されリサイクルされるローカルなプロダクトになる可能性がある。

その傾向をさらに強めかねない要因は、自動運転の運用やその実験を法律的に可能とする、各国・各地域ごとの特区と特区のせめぎ合いだ。このままだと、自社内ネットワークで高規格・高電圧の急速充電インフラを構築できるプレミアムもしくはメガ規模のメーカーはグローバルに、そうでない生活車を造るベーシック・スタンダードなメーカーは地理的・文化的にセグメント化され、両社の差は開いていくことになる。少なくともIAAの時点ではそう思わされた。

◆半導体不足が開発に及ぼす影響

ところが2021年最後の四半期を迎えた今や、昨年から取り沙汰されてきた半導体不足が長引くことが原因で、メーカーによっては新車の生産・デリバリーが滞る状況すら起きてきた。

近い将来の開発途上の技術だけでなく、目先のADASその他の機能モジュールすらこと欠いて組立ができないという状態だ。いわゆるCASEや、高度な情報工学から機械制御まで一貫して統合するメカトロニクスといった技術を実現するには、半導体はもちろん、ソフトウェア開発が欠かせない。そのためメーカーによっては、車載で用いる半導体やコントローラーの点数を節約して減らすという、車載モジュールの見直しや、開発プロセスにおける再構築、再設計まで始まっているという。

IAAでVWが「CARIAD」という独自のソフトウェア会社を発表したのは、それこそハードウェア以上にソフトウェアが重きをなす、今後のクルマ造りの状況を象徴するかのようだった。

ここ数年、電動化や環境、自動運転といったキーワードに焚きつけられ、自動車というプロダクトは過剰なまでの未来や期待を背負わされ、「仮そめの未来感」が消費されているとも思える。そこにコロナ禍における市場の伸びが拍車をかけ、需要の先食いになっていたことを、奇しくも半導体不足が露呈させたのではないか。今後、どこのグループやメーカーが中期的な戦略の見直しを図ってくるか、注目すべき局面といえる。