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【MaaS体験記】日産&ドコモの『Easy Ride』に見た、無人自動運転車の未来

  • 《写真撮影 坂本貴史》
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今回の取材は、日産自動車が取り組む自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービス『Easy Ride』の実証実験だ。日産グローバル本社がある横浜西区から中華街がある中区までのエリアで実施し、市街地を含む公道での実証実験となる。この規模での実証実験は全国でも少なく、今回は、NTTドコモとの共同実証で「AI運行バス」とも連携する。町中を走る自動運転車両に乗るのは初めてだったが、実際に専用アプリで呼び出してからスムースな乗車体験ができた。

◆自動運転モビリティサービスとは

日産自動車の事業構造改革「NISSAN NEXT」における、電動化・自動運転の取り組みのひとつ。「もっと自由な移動を」をコンセプトにして、誰でも好きな場所から行きたい場所へ自由に移動できるサービスとして開発中の取り組みだ。この自動運転モビリティサービス「Easy Ride」は、今回で3回目の実証実験となる。本サービスは、2017年にDeNAと共同開発で開始している。

今回は、NTTドコモのAI(人工知能)を活用した「AI運行バス」と組み合わせた共同実証となり、オンデマンド配車サービスと自動運転車両を用いた実証実験となる。過去2回の実証実験に基づき、ユーザー体験の向上と自動運転技術の進化をしている。本サービスの対象エリアは、神奈川県横浜市西区から中区にわたる国内最大規模で、乗降場所は23箇所、9月21日から6週間程度実施する。

◆横浜での『Easy Ride』乗車体験

横浜市西区にある日産自動車グローバル本社から中区のワールドポーターズに向かう。『Easy Ride』専用のアプリから車両を呼び出した。NTTドコモの「AI運行バス」サービスと同様に、乗車・降車ともに乗降ポイントを地図から選択し、日時と人数を入力して予約する。アプリでは車両予約のほか施設情報なども見ることができる。実証実験中ということもあり、このアプリは一般には公開されていない。今回使用する車両は、日産自動車の電気自動車『e-NV200』をもとにした自動運転用車両で、実証は4台で運行している。

車両が到着すると、アプリから乗車コードを入力し「ドアを開ける」を押す。以前はスマホでバーコードをスキャンする方式だったが、車両に近づかなくてもドアを開閉することができるよう改善された。車内に乗り込むと、大型ディスプレイがありシートベルトを締めるようガイダンスが表示される。つづいて行き先とルートが画面に表示され、車内のピラーに埋め込まれた「GO」ボタンを押すようガイダンスが流れ、実際にボタンを押すとドアが締まり発車する。路線バスの「止まります」ボタンの感覚に近い。

スマホで予約し、車内に乗り込むと大型ディスプレイを見る、発車だけボタンを押すというのは、利用者視点で考えると少々とまどうポイントではないだろうか。スマホの利用が増えてくると、そうした操作はスマホで完結したくなる。一方、物理ボタンを用意するなら、発車だけではなくドアの開閉やストップなどもすべてボタンで操作したくなる。車の操作をどこまでスマホにさせるのかはモビリティ業界にとって大きな課題と言えそうだ。

走行中は、ルート案内や周辺情報と合わせて、車両付近の走行車両や歩行者まで3Dで表示される。運転席にあるモニターのほうが細かく表示されてはいるが、安全にかかわる範囲で後部座席にいてもまわりが表示されるので安心できる。さらに、今回から運転席のアシスト状況を表示できるようになったため、どこで人が介在しているのかが見えるようになった。無人運転を想定すると、いま車両がどのような状況なのかリアルタイムで知りたくなる。以前までであれば、ADオペレーターが同乗してり、伴走車が追走してたため、監視されている感が強かったが、今回ではより実際のサービスに近い状態を体験することができた。

法定速度のため体感としては少し遅く感じたが、車線変更やカーブなどはたしかに人が介在しなくてもスムースに走行できている。交差点の途中で横断歩道で歩行者がいた場合にもきちんと一時停止をしてから発進しているので、人間が運転しているのと変わらない印象が持てる。目的地に到着すると、ドアが開いてからシートベルトを外し降車した。先にドアが開くのは、車内での転倒など安全確保のためだと言う。常に「無人だったら…」を考えての挙動とのことで新鮮な体験ができた。

◆日産の自動運転技術

自動運転技術は、研究段階でもあるため、今回の実証実験ではセーフティドライバーが同乗し、あらかじめ公道とユースケースとを分析し安全設計をしていると日産自動車の総合研究所の木村健氏は説明する。

車両は、日産自動車が研究開発中のEV「e-NV200」を使用し、これにカメラ、レーダ、レーザスキャナーなど20個以上のセンサーを装備して、全周囲360度の状況を検知するようにしている。そのデータを専用コンピュータで判別し安全に走行する自動運転を実現している。とくに、ECU組み込みの自動運転システムの搭載により、一般交通との混走でも高い安定性を実現できていると言う。

市街地における交通環境に合わせての判断が一番難しい。路上駐車車両など障害物の回避や車線変更、交差点における歩行者の検知、ほかの車の割り込みなどの動きを予測するなど。また、将来の遠隔操作を想定して車内のモニタリングも行っている。今回の実証を通して、町中での自動運転サービスの課題を洗い出し商用化につなげる目的だ。

◆AI運行バスとの連携

今回、NTTドコモとの共同実証により、すでに全国21都道府県56エリアにおいて約48万人の運行実績をもつ「AI運行バス」と連携した。そのため本実証のサービスシステムをNTTドコモが担う。車両データと接続するサーバーからダッシュボード、予約のためのユーザー向けスマホアプリと配車ステータスや走行ルートなどを表示するドライバー向けアプリまでを提供する。

NTTドコモのモビリティビジネス推進室の権田尚哉氏は、すでに商用化がされている車両管理システムをベースに、今後の自動運転を想定したカスタマイズをしていると話す。予約状況に加えて車両の状況がわかり、EVにも対応しているためバッテリー残量なども見ることができる。そのためバッテリー残量が足りなければ予約を受け付けないようにもしており、充電が必要あれば日産本社で行っている。また、遠隔操作を想定した車内モニタリングも実施しているが、遠隔操作が必要になった事例はまだないと言う。

車内にある大型ディスプレイには施設情報やクーポン情報等も表示されるが、ユーザーが使うスマホアプリでも同じ情報を表示することができると言う。乗車中でも手元からでも見ることができるため、施設情報を探しながら次の行き先を決めることにもつながりそうだ。

◆無人自動運転車の未来

本実証のターゲットでもある、横浜みなとみらいの在住者および在勤者には、すでにタクシーなどの配車アプリの使用経験はあるだろう。そう考えると、使い慣れているアプリで自動運転車を呼び出すという今回の取り組みは実用化に向けた取り組みとして現実味がある。自動運転技術の進化も目覚ましい。友人の車に乗ったような感覚で安心して町中を走行することができるため、安心・安全な乗車体験という点では問題がないように感じる。

一方で、大型ディスプレイの活用やスマホとの連携については、物足りなさを感じた。現在、タクシーでも後部座席にディスプレイを装備してターゲットに合わせた広告が流れたり、一般車両でもアニメや映画を見るといったことが多くあると聞く。これだけ大きなディスプレイを備えていることを考えれば、手元のスマホと連動することや、独自のエンタメコンテンツがあってもおかしくないのではないだろうか。車両の走行状況をディスプレイに表示するので言えば鉄道も同じだ。鉄道のディスプレイにも路線図や次の駅の情報のほか広告やゲームが流れる。乗車中にそのディスプレイを見ることもあるが、手元のスマホを見ているほうが多いだろう。

今回は自動運転「レベル2」となり、セーフティドライバーが運転席にいることもあるが、将来無人になったときに車内で何をするのかプライベート空間としてのニーズを調査する意味でも今回の実証は未来へつながる取り組みになるはずだ。

■3つ星評価
エリアの大きさ:★☆☆
実証実験の浸透:★☆☆
利用者の評価:★★☆
事業者の関わり:★★☆
将来性:★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。