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【ロールスロイス ボート・テイル】コーチビルドを復活させ、特注プログラム始動

  • 《写真提供 ロールス・ロイスモーター・カーズ》
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  • 《photo by Rolls-Royce》
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ロールスロイスは27日、復活したコーチビルド部門の手による『ボート・テイル』を発表した。

◆コーチビルド部門復活

「歴史的にも、コーチビルドはロールスロイスのなかで重要な位置を占めており、それは現代においてもビスポークの哲学を伝えるとともに、ロールスロイス・ブランドのルーツをたどるものだ。これは、選ばれた人たちが、将来にわたり歴史的な意義を持つ、全く独自でプライベートな依頼による制作に参加する機会であることを意味している」とコメントするのは同社最高経営責任者のトルステン・ミュラー・エトヴェシュ氏だ。

コーチビルド、直訳すると“馬車を作る”とでもなろうか。“自動車”が発明される以前、貴族たちはこぞって自らの馬車を好みに仕立て上げ、その美しさ、豪奢さを競い合った。それは当然自動車にも当てはまるようになり、馬車を作っていた工房がそのまま自動車を手掛けるようになる。それが即ちコーチビルド、コーチビルダーだ。

1920年代から30年代の自動車の多くはモノコック構造ではなく、シャシーとフレームが独立。多くのメーカーはそのローリングシャシー状態で納車され、そこから顧客自らが好みのコーチビルダーにボディを依頼するシステムが確立していた。もちろん、メーカー自らがコーチビルダーに依頼し、カタログモデルとして販売もしていたが、貴族たちはそこに飽き足らなかったのである。しかし、第2次世界大戦後、モノコック化やメーカー自らがボディまで製造することが主流になるにつれ、多くのコーチビルダーはメーカー傘下、あるいはグレード名の一部に名を残すか、消滅してしまったのである。

しかし、2017年、ロールスロイスはワンオフのコーチビルドモデル、『スウェプテイル』を発表。それがきっかけとなり、コーチビルドモデルへの注目が高まった結果、今回コーチビルド部門が復活することになったのだ。ここでは法規にクリアし、また、ロールスロイスのブランドイメージを損なわない限り、様々な顧客の要望に応えられるようになるという。

◆船舶デザインに造詣が深い3人

近年イギリスでは、過去のシャシーナンバーの続きや当時のパーツなどを使い、歴史的名車を現代に蘇らせる“コンティニュエーション”が多く登場している。しかし、このボート・テイルは、「かつて生産されたものを販売するために生み出されたコンセプトではない」とエトヴェシュ氏は否定し、「ボート・テイルは極めて特別な3人のお客様との4年間の共同作業の集大成なのだ」と語る。

同社コーチビルド・デザイン責任者のアレックス・イネス氏は、「ボート・テイルは共通のボディスタイルを持つ3台が作成されたが、それぞれ依頼されたお客様独自の極めて個性的な“印(しるし)”が施されており、それによって異なるストーリーが展開されている」とのこと。具体的にはボディスタイル等は共通ながら、内外装のカラーや装備が異なるという。

この3人は、スウェブテイルを見て興味を覚え、早速コーチビルドの依頼。そのオーダーは、「いままで見たことのないものを作って欲しい」というものだった。

実はそこに面白いエピソードがある。この3人は現代の船舶デザインに造詣が深いことが明らかになり、そこからJクラスのヨットの純粋なフォルムを参考に、またそれを実現するための最高レベルのロールスロイスの職人の技の両面で、デザインは進められた。また、1932年にロールスロイスはビスポークモデルとしてボート・テイルを発表。そのモチーフも含めてこのデザインは生み出された。また、その中の一人は、1932年のロールス・ロイスボート・テイルを所有しており、今回の完成に合わせるようにレストアを行ったという。

◆舳先を上げて海上を疾駆するモーターボートの姿をイメージ

全長約5.8mのボート・テイルは、伸び伸びとしたプロポーションと明快な面構成により、上品でくつろぐ姿勢を表現している。フロントは、新たに手を加えられたロールスロイスの象徴でもあるパンテオン・グリルとライトを中心にリデザインされた。そのグリルはコーチビルドのポートフォリオに含まれるモデルにのみ与えられた自由なデザインが採用されており、決して装飾のためのものではなく、フロントエンドに不可欠な要素となっている。

このフロントエンドは水平方向を強調したデザインと、深い位置に配されたデイタイムランニングライトにより、にらみを利かせたようなボート・テイルのブロウラインをかたちづくりながら、ロールスロイスの伝統的デザインを引用したクラシカルな丸型ヘッドランプを縁取っている。

サイドビューは、船舶を連想させるものが数多く取り入れられた。左右に回り込んだウインドスクリーンはモーターボートのバイザーを連想させ、緩やかに後方へ傾斜するAピラー、広大ですっきりしたフロントのボリューム、そして後方に向けて細くなるリヤエンドは舳先を上げて海上を疾駆するモーターボートの姿を連想させる。ボディ側面下部の徐々にえぐられていくような造形は、ロールスロイスの代名詞ともいえる伝統的なランニングボードのデザインをもとに考案されたもので、軽快な印象をもたらしている。

リアのボディは緩やかに下降し、フロントエンドと同様、ここでもロールス・ロイスの伝統的なデザインである縦型のリアライトではなく、深い位置に配置された横長のリアライトを採用し、水平方向を強調。

特に船舶に関連する要素をよりはっきりと認識出来るのはリア周りだ。後甲板を意味する“アフトデッキ”は、歴史的なボート・テイルの木製リアデッキを現代風にアレンジしたもので、帯状の木の板を組み合わせたものだ。ここにはロールスロイスのエンジニアリングの粋を集めた“カレイドレーニョ・ベニア”が使われており、一般的にはインテリアに使うグレーとブラックの素材を、美観を損なうことなくエクステリアにも使用できるように特別な処理が施されている。

このオープンポアの材料は直線的な木目を特徴としており、ブラッシュドステンレススチール製のピンストライプのインレイによって細長さを強調しており、新旧問わず、ヨットの典型的な木製構造を彷彿とさせる。ロールスロイスのウッドスペシャリストの技術で木目を合わせたブックマッチ構造としながらも、ボディ形状に合わせて収斂させている。ベニア処理は船尾にあたるトランサムの下部にも施され、船尾のテーパーと全体のボリュームとのバランスを確保。この大胆な切り詰め方は、クラシックなボート・テイルボディのハル(船体)のラインをさりげなく表現もしているという。

ボート・テイルの“フィックスドキャノピールーフ”には、建築の影響がみられる。彫刻的なフォルムに加えて、弧を描くルーフラインはリアへ向かうにつれて華奢な構造体へとつながり、フライング・バットレス(飛梁 – とびはり -)を彷彿とさせている。ルーフを外しているときに悪天候に見舞われた場合、一時的に雨宿りをするためのトノーも収納されている。

◆青色の女神を纏うボディ

ボディーカラーはミューズ・イン・ブルー(青色の女神)という、豊かで複合的な色調の青色で、明らかに海洋を暗示するこの色彩は、影の中にあっては微妙な色合いを浮かび上がらせ、日光のもとでは塗料に含まれるメタルやクリスタルの薄片(フレーク)が活力とエネルギーに満ちたオーラを放つものだという。塗装の際には、塗料が完全に乾ききる前にボディラインを指でなぞり、表面の凹凸を消すことで極めて滑らかな仕上がりを実現。ホイールは華やかなブルーで仕上げており、丁寧に研磨したのちクリアコーティングを施し、ボート・テイルの“祝福”というキャラクターをさらに際立たせている。

ロールスロイス初の手塗りのグラデーションボンネットは、比較的落ち着いた深い青色から始まり、進歩的でありながら堅苦しさを感じさせない美しさと、前方から見たときの全体にがっしりとしたボリューム感を強調している。

◆インテリアも海を想起するブルーを

インテリアのレザーはボンネットの色を反映している。フロントシートはドライバーを重視して濃いブルーを、リヤシートは薄いブルーを採用。レザーは柔らかなメタリック調の光沢により、エクステリアカラーとの共通性を際立たせている。また、細部のステッチやパイピングは車載時計の針からインスピレーションを得た、より強いブルーを使用。ボディの下部には、航跡の波を正確に模した55度の角度で鮮やかなブリリアントブルーが織り込まれたテクニカルファイバーが配されている。

現代的な美しさを表現するため、フェイシアは意図的にシンプルにデザイン。そこにはボート・テイルのために特別にオーダーした宝石のようなボヴェ(BOVET 1822)の時計があしらわれている。これはボヴェとロールスロイスのコレクターであるオーナーにより、両社がコラボレーションした結果である。紳士用と淑女用の2つの精巧なリバーシブル時計は、腕に着けることも、車載時計としてボート・テイルのフェイシア中央にセットすることも可能だ。

さらにペンのコレクションも、オーナーの思い入れ深い趣味のひとつで、特に大事にしているモンブランのペンは、ボート・テイルのグローブボックス内に特別に設えたアルミニウムとレザーを使った手作りのケースに収められている。

インストルメントパネルの文字盤には、高級宝飾品や高級時計でよく見られる“ギョーシェ”と呼ぶ装飾技法を採り入れ、また、エレガントな細身のリムを持つツートンステアリングホイールには、ブルーのテーマカラーが採用されている。

◆ホスティング・スイートが最大の特徴

「このクルマはおもてなしの舞台となり、それにふさわしいものを提供しなくてはならない」。これが、ボート・テイルをオーダーした一人の要望だった。そこでリアデッキには、「これまでの自動車の世界には存在しなかった極めて野心的なコンセプトが、目立たぬように搭載されている」と関係者。ボタンを押すとこのデッキは、「蝶の羽のように大きく開き、手の込んだ、広々としたおもてなしの“ホスティング・スイート”が現れる。その凝った動きは、著名な建築家サンティアゴ・カラトラバ氏が追求したカンチレバーコンセプトに着想を得ている」という。

このホスティング・スイートは、「祝福の場を共有する中心点となり、お客様の嗜好や要望のひとつひとつを明らかにするための場を提供。そこには、最高のクオリティで仕上げられたサプライズがふんだんに盛り込まれている」と話す。

中央のラインにヒンジでつながれ、「一糸乱れぬバレエのような動作でこのホスティング・スイートのリッドが開くと、可動する仕掛けの宝箱が、正確に15度の角度でホストに向けて差し出される。このさりげなく上品な動きのプレゼンテーションは、英国の典型的な奉仕の表現が反映されている」と述べる。そしてこの箱には、「ロールスロイスのアルフレスコ・ダイニング(野外の正餐)を体験するのに最適な備品が用意されている」。片側は食前酒用、もう片側は料理用で、“Boat Tail”と刻印されたパリのクリストフル社製カトラリーが収まっているのだ。

このために開発された二重の冷蔵庫には、オーナーお気に入りのヴィンテージ・シャンパン“アルマン・ド・ブリニャック(Armand de Brignac)”が収められ、その特定のサイズのボトルを収納するため、冷蔵庫内に極めて洗練された優美な“ゆりかご”が仕込まれ、その周囲はボトルの色に合わせて丹念に磨き上げられている。

また、ボート・テイルのオーナーは高級なワインにも特別な思い入れがあった。「ご主人の故郷でソムリエをしていた仲良しのご友人が、シャンパーニュ地方の“グラン・マルク”の味の特徴を教えてくれたのだ。これがもととなり、今では世界で最も情報量の豊富な、希少なグラン・クリュ・シャンパンのコレクションを揃えるまでになったのである」。そして、「このような知識や情熱をお客様のボート・テイルを通じて共有することが最も重要であり、またこのシャンパンを、お客様が大好きなヴィンテージ・シャンパーニュの適正温度(正確に6度)まで急速に冷却する必要があったのである」とその仕掛けを説明した。

ホスティング・スイートには、カクテルテーブルが、アテンダント(接客係)の動きを模してエレガントに回転しながら両側に開き、さらに、その下にはミニマリストのスツール2脚が現れる。これはロールス・ロイスがデザインし、イタリアの家具メーカーであるプロメモリア社が製作した細身の連結式スツールで、エクステリアに使用されているものと同じテクニカルファイバーで作られている。

このホスティング・スイートの複雑な要件をサポートするため、独自の電子的処理が必要で、車体後部だけでも5基の電子制御式コントロール・ユニット(ECU)が作られた。これには完全に再設計した専用ワイヤーハーネスが必要で、そのために9か月間におよぶ集中的な研究・開発が行われた。その結果、リアデッキのリッドは正しく67度の角度に開き、安全性の高いロック機構が備わり、さらにさまざまな料理を保存しておくための総合的な空調システムを実現することが出来たのだ。

このため、このホスティング・スイート内の温度にも気を配る必要があった。ボート・テイルは晴天を想定して作られているので、食べ物や飲み物、そしてシャンパンなどに悪影響を及ぼさないよう、断熱を考慮する必要があった。そのために、ホスティング・スイートの下部には、熱を排出させるために2つのファンが取り付けられ、どのような気候でも問題なく使用できることを確認するため、摂氏80度からマイナス20度の厳しい環境下でテストを実施された。

このボート・テイルは認証を取得した公道走行可能なクルマであり、運転することを前提としている。そこで当然他のロールスロイスと同様に、高速走行でリヤ・ホスティング・スイート内の物品が十分に固定されているかどうか、また走行中の静粛性など、厳格な動的テストを受けたのちに納車されている。