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【日産 ノート 新型】日本のコンパクトカーに一石を投じたい…デザイナー[インタビュー]

  • 《提供 日産》
  • 《写真撮影 内田俊一》
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日産から新型『ノート e-POWER』(以下ノート)が発売された。そのデザインは日本のコンパクトカーセグメントに一石を投じたいという思いで開発されたという。そこでデザインのダイレクターになぜそう思ったのかなどについて話を聞いた。

◆高級車と同じデザインランゲージで

—-:入江さんが新型ノートをデザインするにあたり、最初に考えたことはどういうことだったのか、まずはそこから教えてください。

日産グローバルデザイン本部プログラムデザインダイレクターの入江慎一郎さん(以下敬称略):大前提として、日本のコンパクトカーセグメントに一石を投じたいと考えていました。つまり、いままでのデザインの作り方自体を変えていきたいという思いで開発したのが新型ノートです。

—-:それは具体的にはどういうことなのでしょうか。

入江:日本のコンパクトカーは長年、室内は広くて、使い勝手や取り回しの良さなど、どちらかというとデザインよりは室内の居住空間を重視して開発されてきました。そのデザインもどちらかというと遊び心満載みたいなテイスト。しかし今回はピュアEVの『アリア』と同じデザインランゲージ、つまり高級車と同じデザインランゲージでコンパクトカーを作ろうとしたのです。長年日本の市場である意味親しまれてきたコンパクトカーの概念を打ち破るという思いを込めています。

—-:それはコンパクトカーのデザインの質を上げようということと、日産デザインの統一性を持たせようという意味でもありますか。

入江:その通りで、ひとつはアリアから次世代のデザインランゲージを使って開発しているのですが、それを導入することによって一貫性を持たせ、次の時代を狙って我々のデザインを一新していきたいという思いです。

もうひとつはコンパクトカーセグメントに新しい風を入れたい。この2つです。

—-:なぜ新しい風を入れたいと思ったのでしょう。

入江:欧州メーカーのコンパクトカーのトレンドは、長年培ってきたこだわりや、コンパクトハッチと呼ばれている作法みたいなものを大事にしています。コンパクトといえども一切の妥協はせずに、むしろそこに彼らが持っている技術なりデザインなりを踏襲してきたという文化があるのです。そういった欧州のトレンドや考え方は、同じようなコンパクトセグメントが主流になっている日本の市場でも通用するでしょうし、それを浸透させていきたい、コンパクト全体の質を上げていきたいのです。

◆引き算の美学で、プレスラインは1本

—-:ここで少し振り返りをしたいのですが、先代ノートのデザインの評価はどうだったのでしょうか。

入江:先代は先代でその当時のコンパクトセグメントの考え方に着実に則って作ったと思いますので、我々として違和感はありません。しかし途中でe-POWERが搭載され、その先進性に対してデザインは変えなかったことから、そのギャップが私の中では生じてしまいました。今回は第2世代のe-POWERですから、よりピュアなEVのアリアに、スペックをはじめ、走りや静粛性も近づきました。それに合わせたデザインに取り組まないと中身と性能が一致しませんので、そこは重視しています。

—-:では、今回のデザインコンセプトを教えてください。

入江:コンセプト自体は日産の次世代デザインランゲージ、タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズムです。これを当然新型ノートにも踏襲しています。

またこのテーマはアリアに先駆けていち早く市場に投入(市販)したという意味でも、我々日産自動車にとってノートは非常に重要な意味を持っています。

—-:タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズムというのは今後日産としての統一したデザインランゲージですね。日本らしい伝統的なテイストを新鮮な視点で新しい時代、そしてグローバルに通用するモダンなデザインに昇華させることを指すものですね。

入江:はい、タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズムという新しいデザインランゲージのひとつの特徴としては、引き算の美学ではありませんが日本人のもともと持っている美意識みたいなところや、しつらえの良さのような代表的なものを、ノートでも再現しています。例えば、ボディサイドにプレスラインは1本しか入っていません。後はその下に広がる広い面の抑揚だけで持たせているのです。そこにチャレンジしたというのが大きな特徴です。また、色々なパーツ類は出来るだけコンパクトにまとめて、ぱらぱらと要素が散らばって見せないようにもして、まとまりのあるしつらえをしているのです。そこが大きな特徴です。

そして、欧州のコンパクトハッチのトレンドを上手く取り入れながら、つまり、コンパクトハッチとしてのシルエットやプロポーション、佇まいを今回のノートにも踏襲しようとしたのです。

◆スタンスの良さを強調したプロポーション

—-:もう少し具体的に実車ではどのように反映させているのかを教えてください。

入江:まず全長は先代より55mm縮まりましたが、ホイールベースは若干伸ばしています。そして、後席の頭上空間をいじめすぎないようにしながら、サイドビューで見た時のシルエットを低くして、さらにバックウィンドウを現行車よりもかなり寝かせました。そして前後のオーバーハングも出来るだけタイトに見せて、シルエット的には軽快なコンパクトハッチとしてのプロポーションを再現したというのが先代に比べて大きく変わったところです。

—-:フロントフェンダー周りは作り込みが大変なように見えます。これにより相当スタンスを良く見せようともしていますね。

入江:そうです。全長を縮めた意味のひとつとして、ボディの中でタイヤが四隅にあってスタンスが良く見えるというのが一番格好良く見えるプロポーションですから、そこを特に強調するような面構成やボリュームの出し方を心がけて作っています。

◆線ではなく面で勝負するデザイン

—-:では最初にタイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズムを取り入れたアリアとノートとで、一番変えたところはどこでしょうか。

入江:変えた部分というよりは、変わっていて苦労した点として、ボディセクションが挙げられます。どちらもボディサイドの面の抑揚やハイライト面とシャドウ面のコントラストがはっきり出るようにしているのですが、アリアの方はドアの厚みがものすごくあるのですね。つまりドアの厚みがデザイン代として使えるわけです。特にウエストラインから下までのセクションを切った時の厚みが全然違います。

それと同じテーマを5ナンバー枠の中で作るというのは、言葉にするのは簡単なのですが、実際にやってみると寸法がない中でボリュームをとらなければいけない。逆にこのテーマにしたゆえにペラペラ感みたいなものが出てしまうと失敗に終わってしまいますので、いかにこの雰囲気を5ナンバー枠の中でも出していくかが一番難しかったですね。

—-:今後、日産のデザインはキャラクターラインなどの“線”ではなく、“面”で勝負していくのでしょうか。

入江:はい、そこははっきりしています。変にキャラクターラインを多用して遊ぶデザインではなく、本質を狙う取り組み方をしていこうとしていますので、面の抑揚やそこに入るキャラクターラインの緊張感といったもので勝負していくのが、これからの新しい時代の流れでもあるのです。

コロナ禍は想定していませんでしたが、デザイン開発は4年ぐらい前から始まります。当然デザイナーはある意味未来予知みたいなことをしていかなければいけません。それもクルマ業界だけではなくファッションや環境、建築など色々な業界を見ながらトレンド予測をしていくのです。いまは色々なものが溢れてきて、本当の本質を知る人たちはそこから良いものだけをチョイスして、無駄を省いていくのがいまの潮流です。

これは、ひとつのプロダクトの中でも同じことがいえて、無駄な要素をどんどん剥いでいって本当に必要なものだけが最後に残る。そのしつらえの良さや、作り込みの良さにとことんこだわっていくということです。例えばエクステリアであれば面の張りや抑揚というところで勝負していく世界になるでしょう。そこで我々はいち早くそこにチャレンジしています。それが先日発表したアリアから始まる新しいデザインの取り組み方なのです。

◆スタンスの良さを重視して

—-:エクステリアではフロントのVモーションを今後の日産車に採用していくというお話を『キックス』の際に伺いました。これが第2弾となると思いますが、そのキックスと比べてVモーションはどのような考えでどう変えたのか教えてください。

入江:日産自動車は面白い会社で、固執しないのですね。それがブランド力につながっているかなと思っています。当然テーマとしてVモーションというアスペクトは決めているのですが、その自由性、自由度は果てしなく自由な感じにしていて、常にクルマごとに進化していくわけで、それが特徴だと思っています。根底にあるVモーションというところさえ押さえておけば、どのクルマでも日産の顔には変わりないことが表現出来ているのも非常に面白いところです。

今回、特にテーマとして掲げたのは、先程もお話しましたように、色々なパーツパーツをばらばらに見せたくはないので、グリルとヘッドランプ、さらにはインテグレートされているVモーションですらひとつの大きなシルエットの中に収まるようにデザインしたのが、今回の最大の特徴です。

キックスから引き継がれているというか、同じような感じなのが、ヘッドランプの下からクロームのVモーションが下に伸びているところで、そこがひとつ特徴といえば特徴です。アリアもそうなっていますし、今後の日産デザインの顔としてもそういった流れにしばらくはなるでしょう。

—-:フロントから見た時にクロームの部分とボディ色のバランスが良いので、スタンス良くも見せていますね。

入江:そのスタンスが良く見えるようにするのは本当に気をつけました。フロントビューでは、バンパーサイドのチークの部分に入っている、スリット状の縦方向のエアインテークは空力を考慮した機能部品です。それと同時にスタンスの良さに寄与するアクセントとして、出来るだけワイド方向でバンパーの外側いっぱいいっぱいまで出して存在感を感じさせています。またそこに1本スリットが入ることによって、そこで目が止まりますので、それもバンパーのワイド感に寄与している部分になっています。

—-:同時に真後ろから見るとリアフェンダーが張っていますね。このセグメントでリアをここまで張らせるのは凄いですね。

入江:はい。また、張って見えるのに寄与しているひとつに、リアコンビが横一文字でシルエットを統一していることが挙げられます。それもワイド感につながっているのです。要は人の目線が左右にすっと通って見えますので、自然にクルマのスタンスをより強調し、サブリミナル効果ではないですが、それにも寄与しているわけです。

—-:相対的にリアウィンドウは小さくなりました。

入江:Cピラー以降で居住性をいじめないくらいのところから、かなりキャビンを絞り込み、そこでフェンダーの上面の抑揚を表現しています。

◆ホイールカバーは自信作

—-:今回のノートで一番こだわったところはどこでしょうか。

入江:一番こだわったし一番難しかったのは、エクステリアでは、先程お話しましたボディサイドのプレスラインの下の面です。この広大な下の面で、我々が気にしたのは日本人が持つ美意識の中の移ろいです。大胆にアクロバティックに作るのではなく、微妙な面の変化による光があたった時に移ろう面の抑揚。当然日本市場では、日本の風景に溶け込みますし、またクルマ単体としての質の良さにもつながっていきます。その表現に一番こだわりました。

これは本当にクレイモデラーの腕の見せどころです。当然デジタルも使いながら作り込んでいったのですが、その辺りの職人の手業とデジタルツールの掛け合いという、上手いコンビネーションで作っていきました。

—-:ではこのこだわりに対して一番表現出来ているボディカラーはどれでしょう。

入江:個人的に好きなのはバイオレットとブラックのツートーンで、これは日産の新色です。コミュニケーションカラーはブルーブラックのツートーンです。淡いピンクのこだわりは、彩度をわざと落として派手すぎないようにしたこと。実は開発当時は桜色と呼んでおり、優しい、でも艶のあるカラーです。面の移ろいや抑揚が派手すぎず、品良く見えるのがこの色の特徴です。

—-:その他、語っておきたいことがあれば教えてください。

入江:ホイールカバーがあります。今回樹脂のホイールカバーの方がメインで、切削のアルミホイールは内装とセットでオプションです。今回私的には16インチのホイールカバーをアピールしたいですね。これはかなりの自信作で、これもいままでのホイールカバーの概念を覆すというか、違う取り組み方で開発しました。

いままでのホイールカバーはいわゆる「僕はアルミになりたいんだといったけど結局樹脂でした」というイメージですね。要はアルミのフェイクだったわけです。しかし、樹脂、プラスチックなのだから、プラスチックならプラスチックの表現があるでしょう。また、デザインの方向性さえ間違わなければ、アルミでは出来ないことをこの素材を使うことによって出来るというのが今回の取り組み方です。通常のホイールのデザインの仕方、手法とは全く異なる考え方でデザイナーに依頼しました。そして今回生まれたのがこのデザインです。

実際に車両に装着してみると、この16インチのホイールカバーの方が同じ16インチのアルミよりも大きく見えるのです。それはリムの最後の最後までキャラクターラインを通していたり、ホイールカバーなので奥行きがないのですが、まさに折り紙のようにものを織り込んで奥行きがあるかような雰囲気を出すことによって、ペラペラ感ではなく、立体感もありながら、しっかりとした形や強さが表現出来ました。そういったところを凄く気をつけながら作ったのです。ここにも日本ならではのデザイン性の良さ、考え方が入っていて、非常に良いホイールカバーになったと思います。